気がついたのはどの辺りからかと問われれば、きっと最初からだと答えるだろう。
それほどに、こやつは嘘が下手なのだ。
それなのに私を謀ろうとする。誤魔化そうとする。
私にいらぬ疑惑や心配をかけさせるのならば、最初から素直に告白しておけば良いのだ。
口で言った所で、こやつは理解できぬだろう。それすら腹立たしい。

「ひっ…ア…、っあ」

温かな湯から引きずり出され膝立ちで這い蹲る格好をさせられ、浴槽の淵に両手を縋りつかせる様に掴んだまま、恋次はか細い声を上げた。
背後に覆い被さるようにして強く押しつける男は、そんな声もお構いなしに容赦無く赤く鬱血したわき腹に手を伸ばす。

「…痛、ぇ…やめ…隊長…」

探るように動かす指は傷を労るという気配すら見せず乱暴に触れるものだから、体を駆け抜ける痛みに悲鳴を上げずにはいられない。軽く身体をひねるだけでも痛くて身体を洗うのを諦めたというのに、それを他人に直接触れられて痛くない訳が無い。
それでも、強く言い返したり抵抗できないのは、黙っていてもビリビリと伝わってくる程に白哉の機嫌が悪くなっていたからだ。
これは完全に、怒っている。

「…う…、っ…」

痛みに耐えながら、恋次は思う。
…何をこんなに怒らせた?
別に白哉の誘いを断ったわけでも、興を削ぐような失態をしたわけでも無い筈…だと思う。
ただ、黙って風呂に入ったのと怪我を隠していたくらいで、何故こんなにも怒っているのだろうか。
沈黙を続ける白哉はわき腹を探る手はそのままに、片方の手は更に敏感な部分へ。
尻を突き出すような格好のまま腰から指を下らせ、双丘の奥。つい先ほどまで白哉を受け入れていた蕾へと伸ばされる。
そっと入り口を撫でれば、誘うように収縮を繰り返す其処は未だ柔らかく、少し力を入れただけで直ぐに沈み込む。
その中は白濁が残っているらしく、動かす度に卑猥な音を立てた。

「たいちょ…本当に、痛…ぃ…手ぇ離して下さ…っ。ああっ…」
「貴様は、…」

何かを言いかけた白哉だが、それ以上は言葉を続ける事は無い。というよりは、感情のまま怒鳴ってしまうのを堪えるように押し黙ったという方が正しいだろう。
その代わりだと言うかのように、その背に体重を掛け動けなくした上で、白哉は恋次の震える肩口に歯を立て噛みついた。

「…ーっ!アぁ!!」

柔らかい皮膚は歯形に合わせて陥没する所か、喰い破られてじんわりと血が滲むほど。強い痛みに恋次は大きく喘ぎ項垂れるが、それでも白哉はその手を緩める事はない。
更に中を探る指を増やすと、その先の行為に向けて性急に恋次を追い立てた。
じわりと目尻に溜まっていた涙が地面へと落ちたが、湯が流れ続ける濡れた床ではそんな一粒は直ぐに混ざり合い分からなくなる。
微かに鼻につく血液の香り。じゅると啜り上げる音と共に滑った舌が首筋、耳へと場所を変え甘噛みを繰り返す。その度に強く噛まれるのではないかと過剰に反応する恋次の身体に、白哉は薄く笑った。

「先ほど私のものを受け入れていたというのに、よく締まる穴だ」

きゅうきゅうと収縮を繰り返す後孔は強い刺激に合わせ白哉の指を締め付ける。
そんな冷たい言葉すら刺激の一部になるのか、また強く身体を跳ねさせた恋次は恥ずかしさのあまり首を振る事しか出来ない。

「嫌だっ…痛…」

痛いのは首の噛み跡かわき腹なのか、それとも指を受け入れさせられているからかなのか、もう分からない。
ふいに身体を離した白哉は着物の前をくつろげる。その気配に恋次はぶるぶると震える身体をそのままに強く目を瞑り身を裂く衝撃に備える事しか出来なかった。

「恋次」

髪を掴まれ顔を上げさせられれば、涙で曇る視界に映るのは愛しい人。
乱暴な愛撫とは対照的な優しい接吻に、思わず我慢していた涙が次々に頬を伝う。

「ぅ…ん…」

絡め合う舌の熱さに、徐々に体内に侵入する熱い塊に、脳を溶かすような熱に恋次は朦朧とする思考で考える。
先ほどまであんなにも寒かった筈なのに、今は全身から汗が吹き出す程に熱く火照り続いている。この熱は一体何なのだろうか。

「恋次」
「隊長っ、…たい、ちょ…」

呼ぶ声に応えるよう、喘ぐ呼吸に合わせ繰り返せば、身体中を駆け抜ける悦が傷の痛みすら掻き消してゆく。
強く揺さぶられる律動に合わせもっとと誘うように動く腰も、はしたない声しか出せなくなった口も、もう堪える事すら忘れて、恋次は真っ白に燃やし尽くす程の熱に翻弄されるまま、荒い息を吐き出した。


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すっかり落ちてしまいぐったりと横たわる恋次を見下ろして、白哉はようやく深いため息をついた。
ずっと触れ続けていたわき腹から手を離せば、その炎症を起こしている箇所は最初の頃よりも小さくなっているように見える。
白哉の鬼道の技を持ってすれば、肋骨の1本や2本治癒させる事はできなくもない。それでも完全に治してやるのは癪に触った。

これ以上はしてやらぬ。そう呟くと白哉は眠る恋次を睨みつけた。
このまま情事の跡が色濃く残る肌のまま四番隊で恥をかけば良いのだ。そう鼻をならすものの、このまま寒空の下に裸で放り出すという事が出来ないのは惚れた者の弱みであろう。

気がつけば自分の着物も浴場の湯や汗で濡れて冷たくなっている。本当ならばゆっくり2人で外の雪でも眺めながら温かな湯に浸かり日頃の疲れを癒すのも計画の内であったのに、この違いは何だ。

「起きた後は覚えておれ」

とりあえず説教の一つでもしてやらねば気が済まぬ。
そう呟いた声は眠る恋次には届く筈も無く、降り続いていた雪はいつの間にか止んでいた。

外はますます冷え、水を凍らす程に。気温は零度を越えつつあった。







Fin...





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