蝋燭の照明が部屋の中を薄暗く照らし出す。
先ほどの部屋の隣、襖を開けた奥の部屋には既に布団が敷かれていた。
2組ある布団の片方を脇へ押しやり広く開けた敷布の上。
死覇装の上着と袴だけを取り去った半襦袢の格好のまま、恋次は白哉の両足の間に顔を埋めていた。

「…ん…」

室内に置かれた火鉢のお陰で暖められてはいたもののやはり襦袢一枚では冬の夜は肌寒く、僅かに漂う冷気に剥き出しの下半身が少々栗立つようだ。
折って座り込む脚が襦袢の間からチラリと覗いている。
寒さから逃れようと無意識に足を擦り合わせるように動かせば、眼前の白哉を煽るだけだという事を本人は知らず、ただ口に頬張った肉棒を奉仕する事に集中しているせいか情人の視線にさえも気がついていない。

「脱がぬのか」
「…、寒ぃし。たまにはいいじゃないすか…」

たまには。そう、肌を見せ合う事すら恥ずかしいという関係もとうに超えており、白哉はますます疑惑を深めざるおえない。
普段の恋次ならば、寒くとも衣服が汚れるのが嫌だと進んで衣服を脱ぐほどだ。それに寒いと言うならば布団を被るなり、それなりに対策をすれば良いだけではないか。

…怪しい。
そう思う白哉ではあるが、今それを口に出す事はしないのだ。
何かを隠している事を誤魔化すように閨事に持ち込み、主導権を握ろうとしている事がどんなに愚かな事かを後でたっぷりと指導してやらねばなるまいと、白哉は口淫に励む恋次の髪を撫でながらほくそ笑んだ。

「あ、の…」

しばらくの間、奉仕を続けていた恋次であったが、ふいにそこから口を離すと臍、わき腹と口づけを続けつつ体を起こしながら酷く頼りなさげな声を上げた。
そのまま鎖骨、首筋へと辿りつく頃には吐き出す息すら荒く、その視線は熱に浮かされたように揺れている。

「っ、隊長…」

ちゅっと音を立て何度も肌を啄むその仕草が何を求めているのか白哉には手に取るように分かっていたが、あえて知らぬ振りをした。

「どうした?」

そうやって焦らすように背を撫でてやると、次第に涙で濡れる目尻が酷く白哉を誘惑するが、それでも気づかぬふり。
おそらく恋次も腹に付くほどに自身を大きくしている事だろう。それを触ってほしい、後ろの孔を解してほしい。そう素直に口に出せないいじらしさが余計に白哉の心情を煽ったが、それでも素直に言う事を聞いてやる気は毛頭無い。

「たいちょ…っ」

普段ならば呼ぶだけでどうしてほしいのか伝わるのに。
何も動いてくれないと理解した恋次は、ますます顔を赤く染め遂には泣きたくなってきた。
こんなにも触ってほしいと訴えているのに、何故動いてくれないのだろう。
奉仕のおかげで堅く起ち上がったその肉棒は未だ自分の手の中で熱く脈打っているというのに、涼しい顔で余裕さえ垣間見せるこの男と、正反対に何も触れられていないにも関わらずこんなにも熱く焦らされている自分とのこの差は一体何なのか。
普段ならば根負けして求める台詞を吐いてしまう恋次であったが、今回は違っていた。
ゆっくりと自らの指を唾液で濡らすと後ろの孔へと指を持っていく。その様子に白哉の目が面白げに細められたのを恋次は気づかない。
自分の孔に触れる冷たい感覚に負けじと指を突っ込めば、奇妙な違和感にびくりと跳ねる体。

「ぅ…あ、っは」

想い人の上に跨り自慰に耽るという行為は背徳感を煽るようにじりじりと身体の中の熱を燻らせてゆく。その羞恥に、目尻に溜まった涙が一筋頬を伝い落ちた。
強制もされてない上に今回は己が主導権を握ると宣言した手前恋次も引き下がる事が出来なかったが、拙い指の動きはなかなか想うように熱を上げる事ができない。
これが白哉ならば、自分の体を自分よりも知り尽くしている白哉ならば、簡単に好い箇所を捜し当て、すぐ様快楽の底に付き落としてくれるのに。
肌に張り付く襦袢が汗を吸い込んで重く感じられる。その体にすがりついているというのに、布1枚の隔たりがお互いの間に壁を作るようで余計に切なかった。

「恋次」

耳に入ってくる低い声音に顔を上げれば、途端に頬を両手で持ち上げられて唇が重なり合った。
すぐさま進入する舌を自らので絡ませれば、お互いの唾液が音を立てる。
荒い呼吸に合わせるように口づけを繰り返せば、飲みきれない唾液が肌の上を伝う。気がつけば後ろの口には自分の指と白哉を指を受け入れていた。
膝立ちの不安定な姿勢に両足が痺れてきていたが、それでもかまわず行為に没頭すれば、切れ切れな声が口の端からこぼれ落ちる事さえ気にならなくなる。

「あ…、んっ…ん」

むき出しの性感帯を指が掠める度にびくりと体が震える。
もう膝立ちの体勢が辛く、できる事ならば横になりたいと思う。
そうして、覆い被さる白哉の体重を受け止めたい。そう思うが、今はそれは出来ないのだ。
ぐずぐずに崩れ落ちそうな体を必死に起きあがらせて、恋次は白哉を敷布の上へ押し倒した。

「隊長。…も、いいすか」

力の入らない体でのろのろと白哉の牡に後ろ手を添えると、片方の手はバランスを取るように腹の上へ。
指とは比較にならない太い塊を受け入れようと深い息を吐く恋次の視線は熱に浮かされ定まってはおらず、ふらふらと不安定な姿勢のまま、白哉の腰に跨った。

どうやら未だ主導権を握っていると思っているらしい恋次の様子に、白哉は大人しく横になってやる。
眼上には白い襦袢が汗で張り付き中の肌の色までうっすらと透けて見える。
その薄い布に隠されている赤く染まった肌に立ち上がった胸の突起。頭を掲げる牡すら見る事は叶わない。
何ともったいない事だと白哉は一人頭の中でごちた。


「…アっ…あぁ…う…」

強い圧迫感を堪えて、奥まで受け入れた所で、恋次は力を抜くように深い息を吐き出した。
いつもならば下になる事の方が多い上に、恋次主体で行われる事は殆ど無い。故に、繋がってしまえば直ぐ様強く揺さぶられて訳が分からなくなるという事態に陥るのだが、今回は違うのだという事に妙な違和感と、少しばかりの感動を覚える。

前を見れば軽く上半身を起こしただけの白哉が黙って自分が動くのを待っている。着物の袖に腕を通しているだけのあられもない姿の白哉が自分の下に大人しく組み敷かれている。なんと貴重な事だろうか。
敷布に流れる艶やかな髪、白い肌が僅かな灯りに照らされて艶めかしく映るのに、その瞳だけは相変わらず射るような鋭さで自分を捕らえている。
実際に貫かれているのは自分の方であって、間違っても下克上などになっていない事は明らかであったが、それでも自分勝手に振り回される事の多い閨事で、自分に優先権が回ってくる事が未だかつてあっただろうかと思い巡らせた。


「…隊長」

まだ始まったばかりだとゆうのに、口に出した自分の声が掠れていたのが妙に可笑しくて、恋次は咽の奥で笑いながら大人しい情人に口づけをせがんだ。




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灯りとりの蝋燭がそろそろ消えようとしている。
盛り上がった布団の隅からもそもそと這い出した恋次は隣で眠る白哉を気にしながらゆっくりと起きあがった。

結局あれから直ぐに立場が逆転し、やはり散々鳴かされたのは恋次の方であった。下からの突き上げに耐えきれずしがみつく事しかできなかった自分の不甲斐無さにちょっとだけヘコむ。
どんな体制であろうとも手慣れているのは白哉の方で、ゆっくりじっくり楽しみたかった恋次の意見など却下されるのは…まぁ、予想できた事だが。
それでも、無理な体制を強いられる事が無かっただけでもよしとして、恋次は音を立てないよう注意しながら衣服を身につけると、そろりと部屋を抜け出した。





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