神獣の呪いと鬼神の想い人について 壱
「リリスちゃんは、コレが何なのか分かるの?」
「もちろんよ、これは”恋の呪い”よ」
「恋?それはまた女の子が好きそうなモノだね。両想いになります…的な?」
「残念ながら違うわね。呪いをかけられた人は、好きな人の事が分からなくなってしまうの」
「何ソレ?」
「きっとその女の子は、貴方には誰か別の本命がいらっしゃると思ったのではないかしら?」
「いないけど…それって、記憶を消してしまう的な?」
「そんな大げさなものじゃないわ。五感からの情報と海馬にある記憶を操作して…ええと、例えばの話なのだけど、私の旦那様は私の事を一番に愛しているでしょう?」
「そうだね」
「けれど、コレを使うと旦那様の中から私の記憶が消える訳じゃないの。だけど実際に私を目の前にした旦那様は、私を私と気付かない。目の前にいる私が記憶の私と結びつかなくて、思うのよ。”自分の愛しているのはこの人じゃない”ってね…、そのうち記憶が勝手に補修した私を違う女に当てはめて、愛してしまう」
「うっわ、何その回りくどい呪い」
「だから良いのよ〜。記憶を消すなんてそれこそ生贄のような対価が必要だったり騒ぎになってしまったり大げさでしょう?使うなら色々と条件があるのだけれど、実際に結構売れたのよ?」
「え!コレってもしかして魔女の谷特製?」
「略奪愛用のアイテムとしてね。まぁ、国際輸入制限に引っかからない程度のものだから、そんなに強い効果は無いのだけれど…。色々あって今は製造中止になっているの」
「ふ〜ん、でもこのお札の形式って見た目だけなら東洋っぽいよ?それに魔女の谷なら薬品が十八番でしょ?」
「その時丁度ジャポニズムブームだったのよね。アジアンなお札の方が何となく効果がありそうじゃな〜い」
「全く、くだらないね。僕の作った媚薬の方が何倍もてっとり早いのに」
「うふふ、女心は複雑なのよ」
閻魔庁から桃源郷まで、どうやって帰ったかなんて覚えていなかった。ふらふらと寝台までたどり着くと、そのまま倒れ込むように眠りに落ちた。
この時の軽はずみな行動が、やがて自らの首を絞める事になるなんて、この時は本当に予測もしていなかったのだ。
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