長椅子の柔らかな面が、二人分の体重を受けて沈み込む。
もう誰も来る事も無い執務室で、口付け合う湿った音と僅かな息遣いだけが小さく聴こえていた。

「恋次」

きつく固定していた紙紐を解き落ちてくる艶の良い紅を一房手に絡めながら、白哉は自分の着物に手をかけようとする情人を呼んだ。
その声だけでぴくりと反応を返す様子が愛らしい。

「にゃ…ぅ」

接吻よりも先の行為を望んだのは恋次からであった。
何度も頬や首筋に触れるだけの口付けを落としながら、白哉に馬乗りになった恋次は羽織を脱がせると死覇装の中へと指を忍ばせてゆく。
その動きは酷く拙く、自分から誘ってきたくせに若干の迷いが感じられて、白哉はただ苦笑する。
恥じらいなのか、それとも己の姿にまだ戸惑ったままでいるのか。
自分の首元に顔をうずめていたその顔を引き上げさせると、見慣れない頭の耳を撫で上げ、ゆらりと動いていた尻尾を掴めば、恋次はぞくりと背を這うその感覚に顔を赤らめ目を反らす。 そんな些細な仕草が酷く嬌態を帯びているようで、白哉は再び戸惑いがちな唇の間から覗く舌を捕えた。

「…動物虐待の様で、余り気が進まぬがな」

所詮口だけの言い訳だ。
止めたくないと必死に鳴きながら首を振る猫の反応見たさに良識を並べてみた所で、己の指はさっさと腰帯を解き始めている。
何をその様に不安なのか、姿が変わったとて声を失ったとて恋次に変わりはなく、白哉を萎えさせる要素は何一つ無いというのに。
それに本当に白哉がその姿が不快と感じているならば、今頃はさっさと改造でも何でも良いから早く直せと技術開発局に預けているし、そんな男に触れる事などしない。

「鳴くでない」
「にゃ…っ…、…ん。」

だが流石に蜜事中ににゃーにゃー鳴かれては気分も乗らぬ。そう言えば素直に声を堪える猫に御褒美を。
袴を下ろすと襦袢の間から覗く下帯にゆっくりと手を絡めつつ着物の前を開けば現れる無防備な肌。
色づく胸の突起を舐めればピクリを跳ねる身体、熱を帯びる息遣い。

「っ…、ぅ…」

唇を噛んで声を抑える様が妙に初々しく白哉の目に映った。





起ち立ち上がった自身の先端から、先走りの雫がゆっくりと糸を引き落ちてゆく。
白哉の上に乗ったまま、恋次はその首に腕を回し、白哉の着物を噛みしめて湧き上がる衝動に身体を跳ねさせていた。
白哉の指を銜え込んだ後孔がぐいぐいと広げられる感覚に思わず声を上げてしまいたくなる。
必死に声を抑えようと噛んだ着物はもう唾液で濡れ、抑え切れなかった嬌声が吐く息に混じり漏れ響く。
正直な所、白哉はしっかりと掴んだまま肩口に食らいつく恋次の身体に阻まれて少々やりづらく、毛に覆われたふわふわの耳が時折頬を掠めるこそばゆさに体制を変えようかとも思っていた。
だが今の恋次には悠長に体位がどうのと考える余裕すら無いのは分かりきっていて、手探りのままもう1本指を増やした白哉はこの初々しい恥じらいもまた一興とばかりに満足げな笑みを浮かべて、大腿から臀部をなぞり震える尻尾を撫で上げた。

「にゃあぅ!」
「尾でも感じるのか?そのように指を強く銜え込んでは、いつまで経っても解せぬぞ」
「んっ…、ん」

自分の反応を楽しんでいるかのような白哉の動きに恋次は思わず声を上げた。
体内を指に侵されるだけでも一杯一杯なのに、更に肌の薄い部分を緩い動きでなぞり上げられれば声が出て当然ではないか。
何かを堪える事で身体に余計な力が入ってしまうのは否めず、落ち着けてゆっくりと吐き出そうとする息と共に出てしまう声がまるで発情している猫そのものの声のようで恥ずかしかった。
伏せていた顔を上げ楽しげな男を睨んでも迫力など当然無く、ふんと鼻を鳴らす白哉にますます優越感を与えるだけの今の状況を早く何とかしてほしい。

「恋次、」

それからも散々弱い箇所を弄られ耐えさせられた後で、恋次はそっと肩を押され身体を離すよう促された。熱に浮かされた状態で酷く頭も視線も酸素が不足しているかのような虚ろな状態であるが、素直に白哉には従った。
そっと白哉から唇を合わせられれば舌を差し出し、舌先が動く度にお互いの口から唾液の絡まる音が響く。
孔の疼きが酷く甘いものに変化しているのを感じ恋次はうっとりと目を閉じた。

「んっ、…っ…ん…」


肩に添えていた手を掴まれて、白哉に下へと促される。
導かれるまま辿り着いた先は袴の中で熱く張り詰めており、酷く苦しげに思えた。
唇は絡めたまま手探りで紐を解き、下帯を緩めてやると直ぐ様そそり立つ熱い塊。掌で包み込みゆっくりと上下させてやれば、より一層硬くなり反応を返す白哉のそれが掌に伝わってくる。
恋次は飛びそうになる意識の端でより先の行為を待ちわびながら、こんなに変化してしまった自分を見ても、白哉も同じように高ぶっているのだという心地よさに満たされていた。
そっと白哉が動く気配。
腰を掴まれて、入り口に宛がわれる熱の熱さに、入り込むどうしようもない圧迫感に。恋次は再び白哉の首にすがりついて歯を噛み締める。

「…う…、ー…」

逃げ腰になる腰を掴まれて下から突き上げられる衝撃に涙が一筋零れ落ち、噛んた歯がギリリと音を立てた。

「奥歯が砕けるぞ」

強く噛んだ歯をこれ以上噛ませないように指を差し込んでやれば、隙間から聞こえるのは猫の声。

「にゃぁ、…ぁうっ、ぅ…にゃっ…にゃう…」

切なく繰り返される猫の泣き声は、声だけ聞けばなんとなし苦しんでいるようで聞こえの良いものではない。もし執務室の外を誰かが通り過ぎようものなら、聴こえてくるのは苦しげに呻く猫の声。何か虐待でもしているのかと誤解されかねない声である。
だが何を言っているのかなど、恋次の顔を見れば言葉が無くとも白哉には全て伝わっているのだ。
耳障りな声は無視する事にして更に深くまで繋がるべく恋次の両足を持ち上げた白哉は、次なる行為へと移る事にした。

お互いにもう理性など残っている筈も無く、口付けの音と猫の声だけが、静かな夜の執務室に反響していった。









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自分の上に縋りつき寝てしまった恋次の肩に脱ぎ散らかした着物をおざなりに掛けてやりながら、白哉は汗に濡れた前髪を書き上げた。
普段と違った性なのか、お互い妙な心情の違いでやたら熱く盛り上がってしまった事を自覚し苦い顔をする。
決して耳と尻尾のオプションに反応してしまったからではないと思うのだが、産毛の様に細い毛が温かい肌に柔らかく生えている耳の触り心地は良かった。
何よりも捨てないでと全身で訴えられてこられれば悪い気はしない。
もう一度頭を撫でてやろうとした時であった。


ポンっ!!

白い煙が立ち上る。
次は何が生えたかと想像する前に、身体の上に確かに乗っていた重みは無くなり、肌の温もりすら消えて。恋次という形は跡形も無く白哉の前から消えて無くなっていた。

「恋次」

名を呼んでも返事は無く。乱れて汚れた着物の上に横たわるのは、一匹の猫。
赤毛に黒毛の刺青模様が身体中をぐるりと覆うその珍しい毛色の猫は間違い無く先ほどまで艶やかな声を上げていた白哉の情人だったのだ。

ぐったりと横たわる猫の首の後ろを掴んで揺さぶってみれば、僅かに声を上げるだけ、すっかり寝入ってしまった猫を片手で持ち上げて、白哉は何とも微妙な気持ちでその小憎らしい猫を見下ろした。
もう少し余韻を楽しんでいたかったと思うのに、全く空気の読めない爆発である。


このまま汚れた衣服の後始末をして、尚且つこの小動物を湯に入れてやらねばならない事。
このまま恋次の意識が戻っても、明日からの職務は何も役に立たない事。
何よりも目が覚めたこの猫は自分の状態を知ってきっと大騒ぎで鳴き出すだろう。見世物を見るようにこぞって訪れるだろう野次馬連中をどう蹴散らすか。


腕の中で満足げに眠る猫をそっと抱き上げ、これからの事を考えて白哉は途方にくれた。





END



■あとがき

気まぐれ裏アンケート3位「獣化」でした。

三段階変身付き鯛焼きの出所なんですが、最初2番隊の彼女が夜にゃんと現世でにゃんにゃんしたいが為に作らせた変身薬の試作品だったとか色々考えていたんですが、まぁ誰が犯人でも良いのです。
犬化は色んな素敵サイト様でやってるし、自サイトでも犬恋をやっていた関係で犬以外で何か良いのが無いかと悩み、アメショーの模様って刺青みたいでカッコ良いよなー。と思ったのが事の始まり。
猫恋次ってイラストでは他サイト様でたまに見かけたりするんですが、文章に起こしてみると私自身ちょっと恋次として猫化する事に最初抵抗を感じていたのが、裏に入ったら楽しくして仕方なかったとか(笑)
いやでも恋次はやっぱ犬が可愛いと思います。

にゃんにゃん言いまくってるだけの恋次でゴメンよ!
次はちゃんとあんあん言わせてあげるから!(そこかよ)

アンケートに答えて下さった方々様。読んで下さった方々様。
ありがとうございました。


2009/09/27

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