日記にて気まま更新。獣系注意


「おはようございます!!朽木、隊…長…???」

頭を下げる隊員が、誰一人まともに最後まで上司に向かって挨拶の一つもできないのは今日の朝に限っては仕方の無い事である。
語尾に疑問符を付けまくる部下達の挨拶を無言で受け流すと、白哉は普段よりも早足に執務室へと入った。

扉を閉めて室内に他の隊員がいない事を確認し、そして後悔する。

「たいちょ?」

この犬までも訳が分からずといった顔で此方を見つめてくるから白哉の精神的疲労は朝から極限に達しそうだ。


髪と同じ毛色だからか、上手い具合に隠れた耳。
ゆとりのある袴だからか、完全に隠れた尻尾(若干左右で膨張具合が違って見えるのはこの際無視する事にする)
見た目の違和感は無くなったとしても、この朝の六番隊は「副隊長不在の我らが孤高の隊長が、所属不明の共を連れ出勤してきた」と大騒ぎだ。
加えてガタイの良い長身。珍しい赤毛。激しすぎるほど入った刺青。どう見ても十一番隊がお似合いのヤンキー系あんちゃんとしか言いようがない風体であれば、一体何者かと噂が噂を呼ぶのは間違い無い。

「あの…、朽木隊長。…此方の方は…?」
「十三番隊浮竹からの預かりものだ」
「??……そうですか…」

部下代表として恐る恐る切り出した3席に、まさか自分の妹から預かった犬の扱いに困って、職場にまで連れてきたなどと本当の事を言うわけにもいかず、白哉は最低限の事だけを答える。
退室していった3席は恐らく浮竹隊長の知人か何かで、きっと朽木隊長や六番隊にとってこの人はお客人なのだろう…と考えたようだが、白哉にとって部下が恋次の存在をどう受け止めようとさして問題では無い。白哉にとっての問題は、これが犬だとバレなければ良いのだ。

ちらりと伺えば、命じた通りに大人しく長椅子に座って此方を見ているだけだ。
連れて歩く時も大人しく従っていたし、言いつけ通り吼える事も声を発する事も無い。新しい場所に連れてきたというのに予想外に落ち着いて見える。

この様子ならば執務室に1日置いても邪魔にはならぬだろう。
そう白哉は考えた。



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「では恋次、私はこれからしばらく外出せねばならぬ。大人しく此処で留守番をしているのだぞ」
「わん!」

(…返事は「はい」だと後で教えねばなるまい)

犬を一人置き去りにする事に内心少しだけ不安を抱えつつも、あまりにも得意げな顔で犬が返事をするものだから、白哉は少しだけ期待して、そのまま犬を執務室に置いておくことにした。

「たいちょ…」
「夕刻までには戻る」

戸を閉める直前に、不安げな顔をし名残惜しげに袖を掴む恋次にそう告げて部屋を後にする。
執務室ならば人の出入りも少ないだろう。隊長不在の執務室に用があるとすれば、下からの書類を持ってくる者くらいだ。外出といってもたかが数刻。朝から自室に置きっぱなしにするよりは目が届く。そう白哉は考えていた。



「………」

ひとり残された恋次はしばらく閉ざされた扉を眺めていた。
もうとっくに白哉の気配など無いというのに、落ち着かない様子でぐるりと部屋を1周してみては、また扉の前へと戻る。その繰り返しを数回すると、諦めたように長椅子へと腰を下ろした。

額の手拭いを取り、ゴロリと横になる。
長い間圧迫した耳を解すようにピコピコと動かしてやれば自然と肩の力が抜けていくようで、恋次は小さな溜息を吐いた。
命令とはいえ、無理やりに隠され圧迫されて動きを制限されるのは慣れないし、酷く疲れるものだ。
本音は袴も脱いで尻尾も大きく動かしてやりたいが、それは流石に躊躇われた。

ぐぅぅ…。

ふいに響いた小さい音に、咄嗟に自分の腹を押さえてみる。
食事は毎回白哉が取る時に一緒にさせてもらえてはいたのだが、この朝も、昼も、恋次は満足な量を食べる事なく残していた。
腹が空いていないわけではない。
白哉との食事が嫌なわけでもない。
ただ…。

「たいちょ…」

慣れない部屋でも一人の時間は次第に気分を落ち着かせてくれるもので、誰の気配も無い今の部屋を良い事に、そのまま重くなる瞼をそのまま、ゆっくりと目を閉じた恋次は次第に浅い眠りへと落ちていった。






07 / 08 / 09



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