日記にて気まま更新。獣系注意



夜が明ける。
差し込む明るい朝の光に白哉はゆっくりと目を開けた。

しんと静まり返った部屋に鳥のさえずる爽やかな鳴き声だけが響いている。清々しい朝だ。
昨日のアレは夢だったかー…。
そんな事を考えながら寝返りを打つと、隣にとりあえず用意させたもう一組の布団が目に入った。
使われた形跡は無く綺麗なままだ。

白哉はだるさの残る体を起こすと、部屋をぐるっと見渡してみる。
この部屋にあるはずの無い色。ある筈の無い生き物。簡単に見つかった其れに、白哉は昨日の出来事は夢では無かった事を悟り、少々頭が痛かった。

其れ、…恋次は部屋の隅で丸くなって眠っていた。
長い手足を縮こまらせて、尻尾も丸めて抱きかかえるように。小さくなって眠っている。
今の季節ならば上掛など無くとも凍死する事は無いが、夜は冷えるだろうに。恋次は用意した寝具を使わなかったのだ。それとも犬であるから、寝具など無くとも平気なのだろうか。

昨晩だって、夕食は犬の分も考えて部屋へ2人分運ばせたのに、犬は少し箸をつけただけで止めてしまった。
食べぬのかと問うても、首を振り、此方を見つめるだけ。
嫌っているのならば出て行けば良いのに、じっと部屋の隅に座って白哉の様子を伺っているだけ。

(理解できぬ)

それが白哉が思う犬の印象である。
逃げる様子は無いのに、気にかけてやっても反応は薄い。近づかず離れずの微妙な距離を保ったまま此方を見ているだけという状況は、相手が犬なだけに些か疲れるものだ。
結局無視して早々に眠った白哉も気になっていた為か慣れぬ状況だからか昨晩は快眠とまではいかず、体はだるいし頭も重い。
そんな気がするせいか、ますます犬が可愛くない。

「…たい、ちょ…」

ふいに呼びかけられ、悶々と考えていた白哉の意識は現実へと引き戻された。
眠っていた筈の犬が、気がつけば目を覚まし、赤い瞳を大きく開けて此方を見ている。



------------------------------



「何だ」

そう問いかけても犬は何も反応してこない。
むしろきょとんとした顔で此方の反応を待っているようにも見える。
目が覚めたら自分を見下ろす者がいたから、とりあえず名前を言ってみただけ…という様な感じだ。
見つめ合ったまま無言で固まり合うのは昨日から数えて何回になるだろうか。もう白哉も慣れた風に、ふいと背を向けるとそのまま着替えを始めていった。

死覇装を着ながら今日一日の仕事内容を思い返す。
とりあえず朝晩は執務室での事務的作業があるが、昼に少し外出しなければならない用があった筈だ。
そんな事を考えながら帯を締める。昨日は満足に休む事は出来なかったが、今日からまた仕事に追われる日々が始まるのだ。
坦々と準備を終え、羽織を纏うと立ち上がった白哉はまたピタリと固まった。
ゆっくりと振り返ると、此方と目を合わす犬。


(そうだ…此れをどうする。)


六番隊へ連れてゆくか、置いてゆくか。
他隊はともかく、規律第一の六番隊に私情でペットを職場に持ち込むなどあってはならない。公私混同も良い所だ。
上の人間が部下に対し模範的な態度であらねばならないのは当たり前で、白哉はその最も上の位に位置している。
だがルキアの頼みもあるし、このまま夜まで放り置く事は憚られる。


可愛い妹の頼みを取るか、規律を取るか。
究極の選択である。


「恋次」
「わんっ」

しゃきんと立った耳と尻尾に白哉は溜息を一つ。
色々と考えた挙句、最後に脳裏に過ぎったのはやはり「兄様最低!」と怒るありえないルキアの姿である。
…仕方ない。
そう白哉は腹をくくった。どんな生き物であれ、頼まれた事であるから放り置けないのはこの男の優しさである。

「これから1日、私以外の前では声を出すな。その尾も耳も隠す事を命ずる」

白哉は犬に死覇装と、白い手ぬぐいを差し出した。






06 / 07 / 08



【 戻る 】

Fペシア