日記にて気まま更新。獣系注意


其れはただひたすらに柔らかく、当たり前のように血が通い肌の温かさがあった。

「本物、か」

人の耳よりも薄く、幾らか伸びた紅い毛色に覆われた其の耳の先端を白哉は親指と人差し指で撫で上げてみる。
途端にぶるっと肩を震えさせる犬。
…やはり神経も通っているのだ。

「…ふ…っ…」

更に毛の生え際や耳の付け根に指を這わせ、長い紅毛に埋まる指をもぞもぞと擽るように動かしてやれば、くぅん、と鼻にかかる呼吸を繰り返し、心地よく目を細める。
手を休めると、僅かだが強請るように指に耳を擦り寄らせる仕草まで。

先ほどまで大きく振っていた尻尾も、今ではへたりと床の上。
どうやら、コレがよほど気持ち良いらしい。

「其の尾も本物で…やはり貴様から生えておるのだろうか」


片方の手でそのまま愛撫してやりながら、白哉は先ほど読み終わり軽く折り畳んで脇に置いていたルキアからの手紙を、もう一度開いた。
犬は未だに白哉の指先に夢中で気づいていない。
その開いた長い手紙の後半の一部分を、口には出さずに読み上げる。





…―、

恋次は風呂を嫌い、私の説得では一向に入ってはくれませんでした。
どうぞ兄様にお願い申し上げます。


恋次を風呂に入れてやって下さい。
それと、卯の花隊長にお願いして、狂犬病の予防注射を。


…。



「…恋次」

初めて名で呼んでくれた事に、犬は勢い良く反応した。
ピンと耳を立たせ、目を輝かせ白哉を見上げる。


「風呂に、行くぞ」



直後、部屋中に何ともつかぬ悲鳴が響き渡った。





後々に犬は語る。
風呂も嫌だったが、隊長の何かを含んだ薄ら笑いが何よりも恐ろしかったのだ…と。



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予想していたほどの激しい抵抗は無く、桧造りの浴槽の横、石張りの床に恋次は大人しく座っているように見えた。
最初の内は逃げようとするので2・3度威圧してやったし、此処にも縛道を掛けて引きずり込んだようなものだが。

体格が大きな割には諦めも早いし、思っていた程よりは飼い易いのかもしれぬ。
…そんな事を思いつつ、白哉は濡れないように自身の着物の袖をまくり上げ、石鹸と盥を手に取ると、座り込んでいる犬へと近づいた。


先ほど縛道を掛けた為両手は今も後ろで拘束され、多少暴れた疲れなのか息を乱し見上げる犬の前へと膝を折る。
柔らかい耳の毛まで逆立て敵意を剥き出し、その目は怯えを含みつつも、強く光を放つ鋭い瞳。

構わず、汚い着物を脱がそうと手を出したのがいけなかったのだろう。


「…!」

袖をめくり剥き出しの、差し出した白哉の白い腕に、避ける間も無く恋次は噛みついていた。
鋭い八重歯が滑らかな皮膚に食い込み、そこからは赤い血液がじんわりと滲みだしている。

「恋次」

低い声で諫めても放す様子は無い。どうやら悪ふざけではなさそうだ。
引き剥がそうと腕に力を込めてみても恋次は口を放そうとはせず、更に顎に力を込めて白哉の腕に立て皮膚を喰い千切らんと目を瞑る。
両手も封じられ、見知らぬ人間に体を暴かれようとしている恐怖からか、それともルキアに拾われる以前のトラウマが何かあるのか。

犬の体は小刻みに震えていた。






03 / 04 / 05



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