日記にて気まま更新。獣系注意


「粗茶ですが」


そう、十三番隊第三席の片割れの女がスっと受皿に置かれた熱い茶を4人の前に差し出してゆくのを、無理やり言いくるめられて、とりあえず腰を下ろした白哉は不服そうに眺めていた。


此処は間違いなく、白哉が私室として使っている六番隊隊首室の筈。
何故、十三番隊の隊員に何処で用意したのかも分からない茶を差し出され、もてなされなければならないのだろうか。
屋根裏から暑苦しい霊圧を漏らしつつ気配を伺っているもう一人の三席の存在もより白哉を不快にさせるだけで。和やかな外の陽気とは対象的に、中の空気は重苦しい。 それを知っているのか気にしないのか、ずずっと音を立て一口茶を啜ってから浮竹は事の発端を語り始めた。



2日前に十三番隊舎の隅に隠れていたのをルキアが偶然見つけた事。
どうやら十二番隊の施設から逃げ出したらしい事。
ひどい虐待と実験を受けていた事。


名前は、恋次。




「という訳で白哉、しばらくの間恋次君を預かってやってはくれないか」


「断る」



という訳とはどういう訳だ。
普段床に伏せ滅多に姿を見せない浮竹がわざわざ出向き、生物の話を始めた辺りから嫌な予感はしていたのだ。


この不可思議な容姿から、さぞかし十二番隊では実験対象として悲惨な扱いを受けていたのだろうと理解できるものの、だからといって白哉が面倒を見てやらねばならぬ義理など無い。
第一相手は小動物ではなく、どう見ても大型犬。というか人型。
目つきも悪く、世辞にも可愛いとは言えず、今も警戒しながら白哉の様子を伺っている。



「いや、もともとルキアが面倒見てたんだが、明日から長期任務に当たる事が決まってな」


そうルキアの方を向くと、申し訳なさそうな顔をし、今にも泣きそうな表情で白哉を見つめている。
心優しい彼女の事だ。恐らく可哀想な生物を哀れに思い、面倒を見てやっているのだろう。



「俺が変わりに面倒みようかと思ってたんだが…ちょっと想定外な事…がゴホっ、ゴホゴホ」


「浮竹隊長!」



「どうやら俺は犬アレルギーらしくて」
それだけなんとか言いきると、それからは嵐の過ぎ去るが如く早かった。
屋根裏で待機していた暑苦しい男が出現。
茶を出した女も何時の間にか浮竹の後ろに控え、大声を張り上げつつ大喧嘩。
その騒ぎに伴いルキアも動く。

「おい朽木急げ!浮竹隊長の発作が!」
「良いか恋次、この方は六番隊朽木隊長白哉兄様だ!」

目の前の騒動に思考が付いていっていない白哉を指差し、相手の名を覚えさせる。

「く…たいちょ……?」


「くれぐれも失礼の無いように、名残惜しいが達者でな。それでは兄様失礼致します!」



ザッと消える姿。
遠ざかる霊圧、消える気配。



「……」


嵐が過ぎ去った後残ったのは、呆然と正座したままの1人と、1匹。



「たいちょ?」


微妙に覚えた名を繰り返し、首を傾げる犬がじっと此方に視線を向ける。
恐らくこの犬も今の状況を理解していないのだろう。


…押し付けられたのだ。


白哉は大きな溜め息を吐いた。


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広い部屋に。
正座して向かい合う。
一人と、一匹。




「犬恋次」
―白哉さん拾ってください編―




何も反応の無い様に見える白哉に、紅毛の生き物が薄汚れた着物の懐から何かを取り出した。
無言で差し出したのは、白い封書。



「何だ」
「…」

表面には「白哉兄様へ」と丁寧な可愛らしい字がしたためられており、その紙がルキアからの手紙だという事が伺えた。
仕方なく受け取ると、綺麗に折りたためられていただろうその封書は大きな皺が付いており、更に長時間懐に入れられていたため、よれて生暖かった。
その感触に、白哉の眉間の皺が更に深くなる。



どうせこの生物の事についての要件だろう。
そう予測し開いた手紙には、やはりその類の内容しか書いておらず、その外に白哉に向けての詫びは少ししか無く大部分が目の前でキョロキョロと部屋の様子と白哉を交互に伺っている生物の世話に関する記述のみ。

例えたならば。

「親切な方拾ってください。
名前は恋次です。」

と書かれた置き手紙を想像させるような。
否、現実に其れと何ら変わりは無い内容で。
何も知らず落ち着かない様子で尻尾の毛を弄りながら耳をピコピコと器用に動かしている犬は、相変わらず白哉の様子を伺っている。

酷く気が重い。
私は犬はおろかこんな生物など飼うた事が無いというのに。

…どうしろと言うのだ。







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