背を撫でていた手が双丘へと、ゆっくりと下ってゆく。


未だに無意識に逃げようとする恋次の腰を覆い被さった己の体重で抑え付け、白哉は唾液で濡らした中指を内部へと挿入した。


「…ん…っ!」


一度指の付け根まで入った指を関節まで引き、ぐるりと入り口を広げるように解し、また奥へ。一連の動作を淡々と繰り返す。

女のように濡れはしないが、内側を守る粘膜と白哉の唾液の助けを借り、徐々にではあるが確実に綻ぶ穴へと、更にまた1本指を押し込む。

「う…ぅあ…ぁ…っ…」

感じる箇所を念入りに擦られ、ビクビクと震える背中。耐える声。
髪はかろうじて後頭部の高い位置でまとめられているものの、先ほど仰向けにした際に敷布と頭の間で散々乱れ、今にも解けて崩れてしまいそうだ。

紐から落ちた一房の髪が特徴のある刺青の走る首へと流れ、幾分よりも淫靡に白哉の目に映る。



其れに、酷く優越感を覚えた。



「恋次」


伏せたまま顔を上げない恋次の耳の裏側を舌で愛撫しながら、確かめるように呼んでみる。

その声にも、反応は無い。


余裕など無くなっているのだろうとは理解できるが、気に入らないのも事実で。

余っている手で再び胸を弄ると、その熟れ過ぎるほどに立ち上がった突起を摘み上げた。

「っひ…ああっ…ぁ…ゃめ…ぁ」

「…其の割には、もの欲しげに腰が揺れておるが?」


「ちが…っ…隊長っ!」

嫌だと首を振っても、白哉の告げる言葉に嘘は無く、指の刺激だけで恋次の性器は硬く起立し、揺れる腰の動きに合わせて布に擦れる度、達してしまいそうになるのを必死に堪えている事しかできない。


内股が震えているのも構わずに、白哉は熱く張りつめる己を、解して幾分綻んだ蕾へと押し当てた。

「…恋次」

後孔に触れた熱に思わず敷布を掴んでずり上がろうと逃げる恋次を、自らの欲望のままに、貫いた。


「!!…――ぁあっ!!」



完全に解けた髪紐から、紅の束がバサリと敷布に広がる。
其の光景に、苦しげに声を抑えて震える背中に、酷く湧き上がったのは高揚感。


手に入れたのだと錯覚し、満足するのは醜い私自身。




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「はっ…ハ…ぁ…はぁっ」

脱力しきり力の入らないまま敷布に顔を埋め、荒い呼吸を繰り返した。
後孔はいっぱいに広がり白哉を受け入れされられ、己自身は白く長い指に包まれている。

受け入れた直後の事だ。
今まで触れてこなかった恋次のものに、いきなり白哉の指が触れてきたかと思うと、緩く扱かれその刺激だけであっけなく恋次は吐精してしまったのだ。
それが白哉の手を汚し、絡みつき音を立てる。

「はっ…す、ませ…っ…」

恋次は脱力感から顔を上げる事もできず、恥ずかしさと快楽の余韻に震える声で謝罪した。
それを白哉は咎めることはせず、そのまま濡れた手で萎えた恋次の性器を再び扱くと、また力を取り戻す其れの感触を確かめ、僅かに微笑を漏らす。

だが、僅かに耳に入った息遣いだけで笑われたのだと理解した恋次は、とんでもないほどの羞恥に襲われた。


白哉に、嘲笑されている。


それは顔が見えず、どんな表情をしているのか分からなかったからだ。
すぐさま突き上げを始めた白哉によって、心を置き去りに体は高みへと追い込まれてゆく。

「は…んァ…ぁっ…あ…」


嫌だ。
やめてくれ。

出てくる声は、心とは裏腹に言葉にもなっていない嬌声だけで。
その言葉は出てこない。







何度も考えた。
行為中も、終わってからも、始まる前も。

暇つぶしではないのだろうか。
只の道楽なのではないのだろうか。


だが、僅かな希望も持っていたのだ。
根拠も、理由も無い、漠然とした小さな希望。
それは、以前の連中とは違い、白哉は恋次に行為を強要する際、面白げに笑ったりはしなかったから。
抵抗すれば抑え付けられはしたが、強く抱きしめてくる腕はいつも温かかったから。


「…ぅ…っあ…ぁ…」

敷布を掴んでいる指が痛い。
下半身を支えている両膝が痛い。

心が、痛い。


「恋次」

その声に、触れてくる唇に、流されそうになる意識を、歯を食いしばって留めた。

目の前が暗闇で覆いつくされてゆく。





…もう何も、見えない。


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重なっていた白哉が自分の上から退くと、恋次はゆっくりと体を起こした。

脱力感と疲労がどんなに激しかろうとも、脱がされて布団や畳の上に投げられ皺の付いたくしゃくしゃの着衣を集め始める。
吐き出され、後孔に溜まっていた白哉の精液がどろりと溢れ、内股を下る感触が不快でしかたなくとも、手ぬぐいで軽く拭うと、着物に袖を通し始める。

そして着物を着終わると副隊室へ、恋次が普段寝起きをしている部屋へと帰ってゆくのだ。

今夜も同じように、恋次は身体を起こそうとする。
だが、それを阻んだのは白哉の腕。

強く引き寄せ再び敷布の上に押し倒す。


「今宵戻る事は、許さぬ」


頭上で放たれた言葉に、恋次は笑った。
あの夜のように、酷く歪んだ表情で、酷く悲しい顔で。

その様子に白哉は眉を少し顰めただけで、やはりお互いに、言葉は無い。





ただ…。
傍にいてほしい。
それが強制的であっても。


名を呼べば。
振り向いてほしい。
それが悲痛な表情であっても。


笑って、ほしい。
それに心が無くとも。


構わないのだ。





野に美しく咲いていた花を掘り起こし、持ち帰った。
根を切られ、鉢に入れられたソレはみるみる弱ってゆくのは分かっていたのに。

余りにも愛しくて。
部屋に置いて他の人間になど見せたくないからと窓を閉ざす。
光を失った花は生気を無くし、枯れゆくだけだというのに。

余りにも愛しくて。
それも全て分かった上で、出口を閉ざし逃げ道を塞いだのは私の意思。




再び、白哉の下に組敷かれた恋次は、抵抗する為に白哉の体に手をかける事もなく。
はしたなく漏れてしまう声を塞ぐ為に口を押さえる事も無く、敷布の上に無造作に投げ出されたまま。



白哉にそっと…接吻した。







Fin...




■あとがき


一輪草=いちりんそう
花言葉は「追憶」


今回のテーマ「ねっちょりエロ」
だったのですが、書き終わってみたらねっちょりというよりは、だらだら長いだけになってしまいました。
ぎゃあぁ!艶のあるエロ文が書きたいデース!!

当方、この連載で恋次にどうしても言わせたい台詞があるので、それを言わせるべく書くと、まだ先は長くなりそうなのですが、お付き合いいただけると嬉しいです。

読んで戴き、ありがとうございました。






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