「阿散井君はどうだい?朽木隊長って仕事めちゃくちゃ早いって聞くし…僕の所の隊長は仕事サボってすぐ何処か逃げるからうらやましいよ。」
「まぁ、あの人の仕事は鬼みてぇに早ぇよ、………けど…」
「恋次?」
「いや、何でもねぇ」
お互いの上司に対する何でもない会話の筈なのに、その言葉の続きを言う事ができなかった。
同じ副隊長という立場になっていても、自分は2人と決定的に違っている。
それはどんなに苦労していようとも、吉良も檜佐木もお互いの上司を尊敬し、敬愛しているという所。
あの人は彼女を苦境から救った人で。
憧れで。
尊敬すべき人で。
目標で。
それが腐食され、色あせていく。
「それじゃ、僕はまだ終わってない仕事があるし、三番隊舎に戻るよ。」
「んじゃ俺も、東仙隊長ん所にでも戻るか。…恋次、お前は?」
「俺も帰るつもりっすよ」
「そうか…」
檜佐木は、吉良が完全に背を向けたのを確認し、周りの他の通行人の視線が無いのを確認した後で、そっと恋次に耳うちする。
「なら気をつけろよ」
「?…何が?」
トン。
と押されたのは鎖骨の少し下。
それが鬱血の跡だという事を恋次は直に理解して、とっさに檜佐木の手を払いのけた。
もう無駄と知りつつも手で抑えて隠したのは、昨晩の、白哉との情事の名残。
「っ…、これは……」
「何ビクついてんだよ。大丈夫だって言い触らしやしねぇよ…けど随分と積極的な女だな。美人か?」
「へ…えと…綺麗…っす、めちゃくちゃ」
「うわ畜生!今度紹介しろよな!」
「…はは、」
どうやら勝手に女だと思い込まれた事に、いくらか恋次は安堵する。
否、そう思う事の方が自然で。
不自然なのは自分。
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檜佐木とも分かれた後の帰り道で、またも恋次は立ち尽くす。
どう考えて、自分に相手をさせるのか。
何故自分でなければならないのか。
それとも只都合の良い道具だと思っているだけなのか。
「分かんねぇ…」
あの人は目標だった。
あの人に憧れていた。
あの人を越えたかった。
だからこそ六番隊に入ったのに。
追いつきたくて死ぬほど鍛錬してきたのに。
それなのに。
手を伸ばしてようやく届きそうだと思ったら、何を追っていたのか分からなくなった。
捕らえられ、引きずり込まれた先は底なしの快楽。
戻り道すら遠い昔に無くなった、一面の暗闇。
あの人の世界。
「朽木隊長、阿散井です。」
「入れ」
そうして今夜も。
何も分からないまま、只々体だけが慣らされてゆく。
fin...
■あとがき
菊=きく
花言葉は「思慮深い・困難に耐える」
とりあえず一段落。
こうしたいって頭で思ってる事をいざ文章に起こしてみると、なかなかどうしてこれが上手くいかないのですね(汗)
ええっと…他人相手では割り切れていた行為が、その対象が白哉になった事でどうしてもソレが割り切れなくなったのを自覚する。
みたいな感じな事を書きたかったのですが。。
あーうー。
もやんもやんしたまま、次の舞台は夜の隊首室です。
01 / 02 / 一輪草
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