夜が明けるまで
―…どれだけ時間が過ぎただろう。
自分の髪へ触れてくる何かを感じ、机にうつ伏せ閉じていた目をゆっくりと開いた。
まだ靄のかかる思考と視界に、いつの間にか寝入ってしまっていたのかと、ぼんやりと思う。
ゆっくりと髪から頬へと移動する其れを確かめるように、首を横に動かし視線を上に上げると、ふいに遠ざかる気配。
あぁ、しまった。
心地よい指の感触が離れてゆくのはとても残念な事で、もう少し寝たふりを続けていればもっと堪能できたのに。
顔を上げ辺りを見回すと、さっさと向かいにある自分の机へと歩いて離れるその人の背中が目に入る。
「職場で居睡とは感心せぬ」
「…すみません…」
背を向けたまま冷たく諫める声に、急いで口の端に流れた唾液を袖で拭った。
ずっと寝顔を見られていたのだろうか。
「報告は」
「あ、はい!今日は…」
机に座った上司に今日一日の報告をする間も、相変わらず白哉の表情は普段のまま冷たい。
「…以上です」
「そうか」
報告を終えてもその様子に変化は無く、恋次は少し落ち込んだ。
この報告を終えれば終わり。「お疲れ様です」と言えば「ああ」の一言で、恋次は帰っても良いのだ。
だが、今日は年末。しかも明日はお互いに休み。
そうなれば、必然的に「お誘い」を期待していたのだが、最近の白哉の激務を見て、その期待も半分以下に低下していた。
白哉は貴族で、年の変わりとなれば朽木家は半端じゃない程忙しくなるとルキアから聞かされた事がある。
その当主である白哉に、自分と一緒にいてほしい。などと
せがむのは我侭だ。
そんな考えが先行し、仕事終わりだというのに中々晴れやかな気分にはなれない。
「どうした」
「いえ…」
思いのほか近くで聞こえた声に、床に向けていた視線を上げると、先ほどまで座っていた白哉が自分の目の前まで迫っていた。慌てて視線をずらそうと後退するものの、腕を捕まれ阻まれる。
「…あの、隊長」
「随分と、不満そうだな」
「そ、んな事…」
恋次の腕を掴んでいた手がゆっくりと肩を撫ぜ上がり、首筋を指が這う。
その感触と先への期待に萎縮した恋次の瞳が大きく揺れたのを確認すると、白哉はそっと顔を近づけた。
触れてくる唇の感触に、思わず目を閉じる。
啄むように何度も触れてくる其れが無遠慮に唇を割って入り、顎に添えられていただけの手が再び首筋を撫ぜ始めると、その感触に今度こそ我慢できず恋次はピクリと肩を震わせた。
「っん…隊…、仕事…は」
「もう終いだ。今宵我が閨(ねや)に訪ねてくる無礼な客人も貴様だけだろう」
顔を離され、相変わらず何も読み取れない無表情の顔で言われた言葉に、一瞬きょとんと首を傾げた恋次だが、その意味が分かるや否や目を見開いた。
顔に熱が集まってくるのが分かる。
そのまま腕を引かれ、執務室を出た。
向かう先は。
⇒朽木家
⇒隊首室
【 戻る 】