夜が明けるまで



六番隊 隊首室



「っ、あの…」


温かな湯気が立ち上るお椀を持ち上げて、炊きたての飯をゆっくり咀嚼し飲み込んだ恋次は低くしぶるような声を上げた。

目の前には金粉の散る漆塗りの豪華な食膳が一つ。 対になる食器には色とりどりの御菜が並んでいる。
見た目を裏切らず味もそれはそれは申し分ないものだ。少々冷えていたが、それでも隊の食堂などで作ったものとは味の深みや食材のレベルも比べものにならないほど。
それは朽木家専属の料理長が腕によりをかけて作り運び込ませた品々に他ならなかった。



再び止まってしまった箸をそのままに、恋次は幾度か視線を彷徨わせた後、窺うように顔を上げ正面に対座しているその人へと視線を移す。
だが、恋次の視線が白哉と合わさる直前にどうしても自分から視線を逸らしてしまい、まだ部屋に入ってから一度も白哉と視線を交わしてはいなかった。

本音は合わせたいが、合わせたくない。
痛いくらいに突き刺さる白哉の視線が怖くて、結局恋次は御膳の方へと慌てて視線を落とし、半ば強引に口の中へ飯を流し込んだ。

最高の材料、最高の職人、最高の調理方法の料理が不味い訳は無いのに、緊張で味など分からない。






部屋に呼ばれる少し前、普段のように白哉は恋次を後ろへ従え歩きつつ、ふと口を開いた。

夕餉を食べておらぬのか、と。


それは夜遅くまで白哉を待ち続けた結果晩飯を食べそこなった恋次の腹からあまりにも不快な音が度々発せられていたからで。
恋次は、素直に「はい」と答え、白哉もそうか、と返すだけでその時は大した会話ではなかった。
だが、それからが問題だったのだ。


隊首室に入るなり今まで仕事だった白哉もきっと食事を取っていないだろうから、二人でまずは晩飯だ。と予測していた恋次の期待を裏切り、運ばれたのは一人分の食事。
既に白哉は食事を済ませていたらしく、それは恋次にとわざわざ白哉が用意させたもので。

そして、明らかに白哉の機嫌は悪かった。


「…す、みません」
「何がだ」
「いえ…」

ヤる気だったんですね。とは言えず、誤魔化すようにまた飯を口に入れたが、やはり味などは分からない。
食事を取らずに行為に及んでも良かったのだが、情事の最中で腹など鳴ってしまった時は、それはそれで白哉の不興を買ってしまうのは目に見えていて。 だから何も言えず、ただ急いで食事を済ませ少しでも白哉を待たせないようにと努力する事しかできない。
できれば食後に直ぐ尺らされるのは勘弁してほしいな。
そう、恋次は心の中で祈りつつ、せっかくの豪華な食事を胃に流し込んだ。






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