夜が明けるまで
「やっぱ助かるわ〜。」
「…イエ…」
廊下を歩きつつ、乱菊は上機嫌に笑いながら一升瓶に入ったままの酒を一口呷った。
少し後ろを歩く恋次の両手には、なんとか抱えきれる程の大量の酒瓶。これ等は先ほど食堂から堂々と拝借してきたものだ。
そもそも十番隊舎には酒豪の副隊長の為に、日番谷隊長に秘密でかなりの酒類が保管されていた筈だったのだが。
それも底を尽くほど皆酔っているのかと思うと、只一人素面の恋次は苦笑するしかない。
これでは宴会というよりは酔っ払いの馬鹿騒ぎの中心に足を踏み入れる事になるだろう。
裸に剥かれるのだけは何としても避けなければ、そう密かに決意すると酒の入った袋を抱え直し、前を歩く乱菊の背へと視線を戻す。
だが、見える筈の彼女の影を遮って、何か黒いものが視界を塞いだ。
「アラ、修兵じゃないの」
先にソレが何か認識し、声を上げたのは乱菊の方。
急に現れた黒いものに危うくぶつかりそうになった恋次を支えながら、乱菊の方へ振り返った檜佐木は、呆れたように溜息を吐いた。
「あんまり遅いんで手伝いに来たんスけど、恋次に手伝わせたら罰ゲームにならないじゃないすか」
「いいのよ〜。だって恋次が是非手伝わせて下さいって言うから仕方なく」
そんな事一言も言ってないない。
そうツッコミたいのを堪えて、確認の目配せをしてきた檜佐木には苦笑だけを返した。
「ここはもういいですから、後は俺が手伝いますんで戻ってください。日番谷隊長がお呼びでしたよ」
じゃぁ後は宜しくと、一升瓶を持ったまま先に十番隊執務室へと駆けてゆく乱菊を見送った檜佐木は、恋次の両手を塞ぐ酒を半分持ってやる。
無言の気遣いに小さく礼を言う恋次の頭を檜佐木は軽く拳で叩いた。
「ぃって!」
「馬鹿、来んの遅ぇよ。何度も電話したのに出ねぇし」
「…すんません」
叩かれた頭部が予想外に痛かったのか、空いた手で頭部を撫でようと伸ばすものの、その横から遮るように伸びてきた檜佐木の手でもう一度叩かれる。
「っだ!」
「馬鹿」
抗議の声を上げる前にまた同じ手で乱雑に撫でられて、まとめ上げている髪が少し乱れた気がしたが、そんなのは大して気にならない。
悪戯に笑う檜佐木につられて恋次も笑う。
「今度は頼れよ。すぐ助けに来てやっから」
「俺そんなヤワじゃねぇっすよ」
「何だと生意気」
「わっ!だから髪型が崩れるからやめろって」
並んで歩くというよりは、軽く小走りで追いかけあうように、走る。
あれほど重いと思っていた酒の重みも半分に減ったせいか、だけどそれ以上に足取りは軽くなっていた。
「なァ、恋次」
もう目の前の扉を開けば乱菊達の騒いでいる執務室だ。
扉越しにまで派手に聞こえてくる声は、相当盛り上がっている様子。
戸に手を掛けた恋次の手を、檜佐木が止めた。
「2人で、飲まねぇ?」
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