夜が明けるまで
遅ぇ。
皆が寝静まった十番隊執務室で檜佐木は恋次を待っていた。
あの泥酔具合からして、どこか道端で行き倒れになっていても可笑しくない。外は雪の降り続く零下の空。こんな日に外で寝てしまったら、いくら丈夫な恋次と言えども風邪を惹いてしまうだろう。
もうとっくに帰ってきても良い頃なのに。恋次が出ていってから既に半刻以上経過していた。
「しょうがねぇ…」
やはり無理にでも付き添ってやるべきだったと思う。
面倒臭げに頭を掻きつつ、檜佐木は立ち上った。
静かに扉を開けると、渡り廊下から開けた外は大きな綿雪が止む事無く降り続いている。
気温も朝までは上がらない。この調子なら明日は積もるだろう。こんな中にいては、直ぐに体が冷え切ってしまう。
そう、檜佐木は足早に恋次がいるであろう厠へと向かった。
「おーぃ、平気か酔っ払い」
入り口から顔を除かせて中全体を見渡してみる。
だが、予想を外れて力尽きて倒れているだろうあの大きな体は何処にも無い。
「くそっ、あんの馬鹿何処行きやがった」
来た道を引き返してみても、見つからない。
とりあえず辺りを探してみよう。そう思い直した時だった。
微かに、聞こえる…声。
それは泣き声に似ていて、細く途切れ途切れに聞こえてくる。
だが、それは間違いなく。
「…恋次?」
その声のする先、灯りも付いていない小さな部屋の、その扉を。檜佐木は何のためらいも無く開けてしまっていた。
思いの他静かに開いた扉の向こうは、何でもない物置部屋のようだ。
二三歩足を踏み入れ辺りを見回してみても、外よりも幾分暗い室内では見通しが悪く、ぼんやりと壁や棚の輪郭が判別できる程度。
だが、何だろう。この違和感は。
たかが酔っ払いの後輩一人を探すだけなのに、部屋に入った途端刺すような緊張感で肌が強張っているのを意識する。
「れ、んじ?」
恐る恐る呼んでみるが返事は無い。
確かにこの部屋から聞こえてきた筈なのに…。そう
思いもう一度室内を見回してみるが、やはり暗い室内では何も分からない。
気のせいだったのか…。そう思った時だった。
「ひ…佐木…さ…」
微かに聞こえた声に、勢い良く振り向く。
目を凝らして見ると床に広がっているのは、紅。
這い蹲る白い腕。
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