夜が明けるまで
あんなに飲むんじゃなかった。
そう洗面所で顔を洗いながら、恋次の頭の中をはしさと後悔ばかりがぐるぐると回っている。
まぁ、その後悔もいつもその場限りの後悔で、また乱菊達に酒を勧められ飲まされて潰されるの繰り返しなのは何時もの事。
とりあえず多少吐いてスッキリとした胃に水を流し込んでやると、すっと体が軽くなった気がして大きく溜息を吐く。
「っはー…」
何度か呼吸を繰り替えすと、体に満ちてくるのは脱力感と、睡魔。
やべ、眠い。
そのままふらふらと洗面所を出て、渡り廊下へと足を進める。
ここで限界だった。
バランスを崩して、寄りかかるように壁際へとしゃがみ込む。
酔いのまだ残る頭では、こんな場所で寝てはいけないとか。寝てしまったら風邪を惹くどころか凍死しかねないとか。風邪惹いたら檜佐木さんが心配するかもしれないとか。
そんな事さえも考えさせてはくれない。
うつらうつらと重くなった瞼をそのまま下ろし、恋次はずるずると体を横たえた。
もう意識は半分夢の中。
しいんと静まり返った薄暗い廊下。
無音だった空間に、ひとつ。足音が聞こえる。
あぁ…やはり檜佐木さんが心配して迎えにきてくれたのか…。
そうぼんやりと思って、訳も分からず可笑しくて肩を震わせて笑った。それが寒さから震えたのか、それとも本当に可笑しかったのか。
恋次には其れすら分からない。
「檜佐木さー…」
「恋次」
その名を呼ぼうと口を開いた、直後。遮るように名を呼ばれ、あんなに重かった瞼がぱちっと限界まで見開かれた。
だが体は動かない。
小さな篝火に照らされて目の前に浮かび上がったのは、先ほどまで一緒にいた先輩などでは無く。
白い隊首羽織に同じく白く長い首巻をした。
恋次が最も良く知る人物…。
「貴様、こんな廊下で何をしている」
冷たく言い放った言葉がぞくりと恋次の体を駆けた。それは紛れも無く恐怖で。
体が急速に冷えてゆくような。そんな感覚だった。
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