夜が明けるまで
「そっか、悪ぃ。んじゃ、またな」
「おう」
思いの他あっけなく切れた通話を終えて、伝令神機を再び懐へと仕舞うと、終えた仕事を片付け始めた。
一護には新年にまた現世へ行った時にでも詫びを入れれば良いか。そう思いながらこれからの事を考え、自然と頬が緩んだ。
きっと本人に見られたら間抜け面だと呆れられるだろうけれど。こんな含み笑いは何度目だろう。
先日仕事終りにあの人から「来い」と誘われてからだ。
すっかり暗くなった空を眺めて部屋の明かりを消し、一歩外に出れば降り始めた雪が地面や自分の体へとぽつりぽつりと落ちてくる。
気のまま飛び出してきた恋次の手には灯りすらなく、闇に慣れた目にうっすらと判別できるその道を歩いてゆく。
草履が砂利を踏む音以外は静寂そのもので、降り注ぐ雪がやけに明るく、その無数の美しい綿雪はその人を思わせた。
時折肌を撫ぜる風も死覇装1枚だけでは心許無い冷たさで。恋次は体を縮こませ、歩く足を速めた。
そういえば、去年はこの辺りで鯛焼きを買って持っていったんだよな…。
ふと足を止めて辺りを見渡すも、去年ふらっと立ち寄ったその店のある通りからはもう随分反れてしまっていて。恋次は諦めて袖に積もった雪を何度か掃い、また歩き出す。
前方に見えてくる、壁沿いに浮かぶ大きな門構え。
次第に高鳴る鼓動のままその前に立ち、2度3度扉を叩いた。
冷え切った手足がじいんと痛みで赤くなったのを、息を吹きかけて暖めるとふわりと闇に消えた白い息。その向こうでゆっくりと開かれた扉。
招かれた恋次は、その朽木家の門をくぐった。
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