夜が明けるまで



六番隊 執務室。



「あれ、恋次さんまだお仕事中ですか?」

常務を終えて帰る前に一言挨拶をしようと、上司を探してこの執務室にやってきた理吉は、少しだけ開けられた扉の間からひょっこりと顔を覗かせ中の様子を伺うと、意外だと言わんばかりに声を上げた。


皆今日だけは年末の大掃除やら何やらで普段の仕事どころではなく、せっかくの年末最終日だから皆早めに切り上げて良いとの上司のお達しで、夜勤など一部気の毒な隊員以外は残っているのはもう理吉くらいだ。

一応挨拶を…とやってきた理吉も、上司はもう先に帰った後だと予想して、誰もいない執務室を覗きに来ただけなのだが。
予想に反して執務室の中に残っていたのはこの隊の副隊長である阿散井恋次。しかも、彼は未だ普段のように慣れない書類と睨み合いを続けている。

突然の声に、彼は顔を上げて笑った。

「おう、てめぇも終いか?」
「はい!今からお休みに入らせていただこうと…。あの、何かお手伝い出来る事はありますか?」
「いや、大丈夫だ」

背筋を伸ばして一礼した理吉は、机の上にはまだ書類が積まれているのを見てまだ恋次が仕事の最中だと理解し声をかけたのだが、そんな気遣いなど無用と言う上司にこれ以上仕事の邪魔をしては失礼だと思い直す。

「それでは、先に失礼します!」
「おう」


来年もよろしくお願いします、と頭を下げ扉を閉めた理吉に笑顔で手を上げ見送った恋次は、今しがた書き終えた書類に目を通し、それを処理済みの書類の束へ積み上げ大きく伸びをした。



今日は年末の最後の日だ。


腕を上げ背筋を伸ばすと、今日一日ずっと事務処理ばかりの仕事凝り固まっていた首や間接がグギっと音を立てる。
思いのほか大きなその音に、恋次は小さな溜息を吐いた。

「…ったりぃ…」

本当ならば、理吉の予想通りに早く帰れる筈だったのだ。だが、急に今年中に仕上げなければならない未処理の書類が他隊から回って来た為に残業を余技なくされている。

積み重ねられた書類の山からまた一枚机の上に広げると、渋々筆を取る。
今日ばかりは年明けの祭り事に意識を持っていかれ内心は年末年明けをどう過ごそうかと胸躍らせているのが本音で。目の前の書類を眺めては、これが終わったら何をしようか…そればかり考えていた。





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