艶を帯びた声で囁いてくれ。
難解な言葉の羅列なんざいらねぇ。
単純な言葉でいい。
一言でいい。

「   」、と。


そうしてくれたら、それだけで。







「何のつもりだ」


息が触れ合う距離で耳に入ってくる音は酷く落ち着いて聞こえた。
それだけで馬鹿みてぇに体が震えるのを自覚する。
やったのはこっちの方なのに、された相手がこんな反応で、期待なんかしてねぇくせに後悔の念が湧き上がる負け犬の俺。
すぐに距離を取ろうと身を引くが、肩を引き寄せられて再び先程の位置へと逆戻り。

「いえ」

そう答えるだけで精一杯。視線も絶えず泳いだままで本当に、情けねぇ。

期待した反応は得られなかった。
自分の唇には先ほど触れた相手の唇の温度が残るだけで、強く掴まれた腕が容赦なく痛え。予想通りだけれど、胸の奥がチリっとして不快きわまりない。

顔色も、表情も、つまらない程変わらない反応。…分かってたけど、顔が赤くなるのも、心拍数が跳ね上がるのもいつもこっちだけで。せめて、もう少し。ほんのちょっとだけでも違う反応を期待していたのかもしれない。


「ただ」

こんなのは言い訳だ。


「ただ…、アンタ、が…驚く顔が見てみたかった、だけ…」

この人形みたいな綺麗な人の顔が俺のせいで少しでも動けば、それだけで…錯覚できるから。


「アンタだけ、冷静なままってのが…ムカつく」


どうしようもなく。
こっちが本音。


女々しい事を求めて、玉砕。
求めて掴んだ手を放すタイミングを失った。
触れた筈の唇がどんどん乾いて、だけど頭ん中は衝動的に先ほどの感触を思い出す。

したかったんだ。
堪らなく、この人と。

したかったんだ。
ぬるま湯みてぇな恋人ごっこ、を。


錯覚、したかったんだ。


敗北感いっぱいにうなだれる俺の手を掴み返すアンタは傲慢な笑みで俺を見下すだけ。
何時もの通り。
ほら、死ぬほど勇気だしたくせに変わらねぇじゃねぇか。


「…っ…!」
「ならばもう少し上手く誘ってみせよ」


強く押し倒された体が痛くて衝動的に目を瞑る。
後はもうされるがまま。これも何時もの通り。


違うんだ。
アンタは全く理解しちゃいねぇだろ。


「…っ…ぃ…」
「何だ、つまらぬ」


違ぇよ。
俺がしたいのはこんなことじゃなくて。

こんな行為じゃなくて。







Fin...



■あとがき

殺伐系すれ違い。
かなり昔に描いたものを引っ張り出して修正。オチの無いグダグダ感全開です。
要するにいちゃこらしたいのです。



2009/04/29


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