▽日記ログ うしろから、だきしめる





小さく布の擦れた音と共に、とん と小さな小さな衝撃が背中を掛けた。

「…」

するりと脇の下から伸びる白い手は、ゆっくりゆっくりと黒い布の上を滑り正面へと回される。
前で組まれるかと思われた両の指は、けれども触れ合う事なく自分の服を掴んだ。
じわりと暖かく感じる背後には、ぴたりと密着した相手の胸と、自分の背。

「…」

振り返る事もできないほどに体を寄せられ、目線だけ背後に向けても、捕らえる事ができたのは伏せられた瞼。長い睫毛だけで、口元は若干の身長差のせいで隠されたままだ。
それは、未だつまらなそうに閉じられているのだろうか。それとも楽しげに吊り上っているのだろうか。
閉じたままの瞼は動く事なく、ただただ白い肌に影を落とすのみで何も語ってはくれない。

「…何、スか」

咎めるように低く聞いたで答えなど返ってはこない。
遮るように両腕を掴んでみたけれど離してくれる気配もない。
期待すらさせない沈黙。
それだけで、自分に許される時間も、行動も、何もかもが奪われてしまうのだ。


一度だけ強く抱き込められて。ただ、一度だけ開かれた瞳とかち合い、それが命ずる。


「動くな」、と。


瞼が閉じる瞬間の流し目に、胸元へと競りあがる指に、どくんと跳ねた心臓の音は、きっと聞かれてしまったのだろう。
首筋にふれた吐息がくすぐったい以上に、胸の奥がむず痒かった。







【 戻る 】

Fペシア