やまぬ感覚
限りなく傍にいさせてくれるのに。
もっと甘えたいと思うのは願望。
そんな余裕無く、アンタに翻弄されるのが現実。
[やまぬ劣等感]
「…っ…!」
部屋に入るなり引き倒された。
普段は「静」そのもののように、無駄なく流れるのその腕が、指が。今は性急に自分の衣服を剥いでゆく。
帯を引き抜かれ、冷たい指が布の下に守られていた肌へと滑り込み、思わず内股が引きつった。
「たぃ…っ!…待っ…」
まだ日も沈みきっていない時間なのに、とか。
せめて布団の上で、とか。
つうかやっと久々にお互い時間が取れて、数日ぶりに一緒の時間を過ごせるなって浮かれたまま、部屋に来たばかりなのに、とか。
抑えつけられた肢体の他に抗議できる唯一の口は、もう何度となく熱い舌が出入りし、くぐもった言葉とも呼べない声と唾液が絡まる音が虚しく部屋に響くだけで。
「…ふっ…んん…」
そして程なく堕ちるのだ。
それは時間の問題で。
世間一般の常識だとか、いきなりの事に対する怒りだとか、自分の意識や何もかもが。
そんなのがぼやけて白く霞んで、頭ん中を濁らせてゆく。
変わりにソコを埋めるのは目の前の男。
「恋次」
その一言。
視点が合うほどに顔を離されて、目ぇ合わされたら最後。
その獣みたいな視線が、甘く低い声音が。
ああ、決定的な敗北。
ずりぃよ。余裕あんのはアンタだけじゃねぇか。
些細な事でいいんだ。俺は。
例えば、何もしねぇでただ一緒に手ぇ繋いでぼぅっと過ごすとか。
例えば、今日あった出来事を話し合って笑い合うとか。
(そういや、何でか知らねーけど理吉が突然泡吹いて倒れたって事、この人に話すべきだろうか)
俺は何よりもアンタと小さな幸せっつうのに浸りてぇのに。
ずりぃよ。
ああ、畜生。
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限りなく近くにいるというのに。
常に傍に置きたいと思うのは願望。
目を離せば別の誰かといるのが現実。
[やまぬ焦燥感]
動かしていた筆を置き、手元の書類から部屋の中へと視線を上げた。
終わらせて積み上げた仕事の束に先ほど書き終えた書類を重ねると、何気なく頬杖をつく。
遠くで隊員やらが話す声や、扉を隔てた先の廊下を時折人の気配が過ぎるのを感じるが、白哉一人しかいない執務室はとても静寂していた。
頬杖をついたまま、行儀が悪いと自覚しながらも視線だけでもう一度部屋を見渡す。
だがそれは自分以外の人間がいない事を再確認するだけで。
仕方なく未処理の書類に手を伸ばした。
だが、再び筆を取る気にはならない。
遠くで聞こえる隊員達の声がやはり静かすぎる部屋に届き、それは同時に白哉の耳にも否が応でも入ってくる性だろう。
アレの声はよく耳に届くのだ。
話し声が、笑い声が。
思わず声のする方へと体は動いてしまう。
アレの姿はよく目に入るのだ。
長身は基より、なによりもあの紅が。
アレは、私の前ではあのようになど笑わない。
それは上司と部下の関係以前の問題で。
鎖で繋いで常に傍に置く事ができるなら、どんなに楽か。
そう時折醜い感情が沸き上がる。
些細な事が気になるのだ。
自分以外の者の側にいるという事だけで。
そんな小さな事で、心が乱れてしまう。
(とりあえず、恋次の傍にいるあの小柄な隊員は何という名だったか…)
ああ、どうしてくれよう。
こんなにも愛しいと思うのは私だけか。
fin...
【あとがき】
黒猫様に相互記念に奉げます。
始めはギャグっぽく明るい感じにしようと思ってたんですが、終わってみたら白哉さんの嫉妬深さが際立っただけのアホな内容になってしまいました。
時間の流れとしては白哉サイド→恋次サイドになります。
未熟な文章だとは重々自覚していますが、よければ貰ってやって下さると嬉しいです(土下座)
相互ありがとうございました。
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