ルキアと女性死神協会



それは突然だったんだ。



いつもの通り朝起きて。
顔洗ってメシ食って。
まだ覚醒してない頭で仕事面倒くせぇなーとか考えながら歩いてて。
誰よりも早く執務室で仕事始めてる隊長に挨拶して、それで1日が始まる。

そんな何でも無い日常のよくある出勤風景の筈だったんだ。


違う事と言えば、今日が1月31日だって事。

だから普段は遅刻ギリギリな俺だけど、それでもせめて記念の日なんだから一番最初に隊長におめでとうございますって言おうと気合入れて、頑張って早く起きた。

大切なあの人の。特別な日。
違う事と言えばそれくらいな、普段と変わらない爽やかで清清しい朝。











[ルキアと女性死神協会]






「恋次!」

「…………?」
「ここだ馬鹿者!」

あと2つ角を曲がれば隊長がいるだろう執務室だって所で、不意に呼び止められた。
後ろを振り返るが、…誰もいない。
まだ寝ぼけてんのかと不思議に首をかしげたら、真下から耳に入ったのは懐かしい声。
それと同時に、膝下に強烈に入るローキック。

「っだ!!…あ?……ルキア!?」

「久しぶりだな」

悪びれる様子も無く自信たっぷりに見上げるのは、普段滅多に会う機会が無くなったルキアだ。
相変わらず小せぇから俺の普段の視界からは見えねぇんだよ。
…その台詞は後が怖いので言わない。




「お前が六番隊舎に来るなんて珍しいな。隊長に用か?」
「そんな所だ」

「ならもう執務室にいる筈だぜ?」
「ああ…、その前に少々貴様に協力してもらいたい事があるのだが…少し…よいか?」

「あ?」


何か、違和感。
つうか変だ。


何だ?
普段と比べてルキアの様子が違う。
何かこう…やけにしおらしい感じで、顔まで赤らめてるし。
俺とまともに目を合わせようとしてないなんて。
何だコイツ。

まさか腹でも痛くなったとか?
だから厠の場所が分かんねぇから俺を呼び止めたとか?

そんな事を頭ん中で考えていたら、人目が気になるとか言って、勝手に近くの小部屋に入っちまった。
早く来いと手招きしてくるから、俺もとりあえずルキアに続いて部屋に入る。
ますます訳が分からねぇ。

やっぱ…変なもんでも食ったのか?





「オイ、協力って何ん…」


ゴッ!!



…予測できると思うかよ。
訳分かんねぇくせに突然だったんだ。

部屋に入って、ルキアが後ろ手で扉を閉めて、俺がルキアの方に振り返る前に、後頭部を鈍器みてぇなので思いっきり殴られた。
凶器が何だったのか確認する前に、気がついたら俺は冷たい床の上に横たわってて。
殴られてから倒れるまで、ほんの2、3秒の間だったんだろうが、軽く40年分はあったろう走馬灯みてぇな映像が頭ん中を駆け巡った。

まさか、ルキアが養子に行った時に俺が突き放したのを根に持って?
それとも昔、半分づつ分けようって約束した鯛焼きを、俺がコッソリ多く取ったのを根に持って?
いや、他にも色々思い当たるフシが。


体は痛みも麻痺してとっくに動かない。
薄れ行く意識の中で、妖しく笑うルキアの顔が見えたような、気がした。



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「…おお、目が覚めたか恋次」


刺すような視線を感じて勢い良く目を開くと、まず一番に目に入ったのは、目覚ましにと用意されたタライの水を、今まさに俺めがけてぶっかけようとしているルキアの姿だった。
俺が間一髪目覚めた事で、水責め出来なくなった事に対しての舌打ちが聞こえたが、それはとりあえず置いといて。

「ル…キア?…ってめぇ!さっきはよくも!!」

胸ぐらを掴もうと手を伸ばしたが、適わなかった。
そこで始めて気がついたんだ。

俺の両手、両足、胴体にいたるまでしっかりと縛道が掛けられているのを。
そして、俺の前にいるのはルキアだけじゃないって事を。


此処は…。





「人数が大方揃いましたので始めます。まずは草鹿副隊長のご挨拶から」

「よろしくー」

「はい結構です。それではー…」

七番隊の伊勢副隊長と、前の上司の十一番隊草鹿副隊長。
それどころか、乱菊さんや涅副隊長、砕蜂隊長まで。


何なんだこの集団は?
ここで一体何があるんだ?

というか、何で俺は縛られてんだよ!
何されるんだよ!
訳分かんねぇけど、とりあえず良い状況じゃないってのだけは分かるのが嫌だ。

だから誰か助けてくれ!!


朽木隊長!!
















その頃の朽木隊長。
朝から恋次の顔見てなくて、ちょっと不機嫌。

「……恋次を見ぬか?」
「恋次さんなら女性死神協会に出頭中との届けが出てましたよ」

「そうか」

恋次君の叫びは、まだ届いていない様子です。



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黒板に達筆に大きく書かれた文字を、声に出して読んでみる。

「第2回、朽木隊長生誕に送る品を考える会。…何だそりゃ」

「言葉の通りだ」

説明しろと訴えれば黒板を読めと言い返され、書いてある文字を読んだ所で、状況は全く把握できない。
つまり、朽木隊長の誕生日だから何か送るらしいっつうのは分かった。

だが、それに何で俺が凶器で殴られた挙句、拉致られなきゃなんねぇんだよ!


そんな俺の訴えを無視してルキアは説明を続けている。


「とにかく今日は兄様の誕生日なのは知っておろう。死神は長寿故、毎年贈り物を考えるネタが尽きてしまってな。」

「そりゃぁ大変だな」

「そうだろう。困っていた所、こちらの女性死神協会の先輩方に議題として上げていただいたのだ」

「……まさか…」

「その通り!喜べ恋次。調査と検討を重ねた結果、貴様を兄様に贈呈するのが一番得策だと女性死神協会から判決が下ったのだ!」




何だそりゃ!

推理系の話でよくある「犯人はお前だ!」とかのノリで言うんじゃねぇよ。頭が付いていけなくて反論するタイミング失っちまったじゃねぇかよ。

まさに絶句とは、こんな状態の事を言うんだろうな、とやけに冷静に考える俺と。
そんな事考えてる場合じゃねぇよ、ってツッコミ入れる俺が頭ん中をぐるぐる回ってる。



「よろしいでしょうか?それでは、第1回で贈呈する品を決めていただきましたが…この度、第2回の本題に入らせていただきます」

進行を勤める伊勢副隊長が、クイっと眼鏡を持ち上げる仕草をする途中、チラリと目が合った。
すげぇ嫌な…予感。




「どのような形で贈呈するが好ましいか。みなさん各自考えていただきましたアイディアを発表してください。まず…、松本副隊長」

「ええー。そうねぇ…素っ裸で部屋に放りこめばいいんじゃない?用途なんて分かりきってるんだし」

「朽木さん」

「巨大なチャッピーの着ぐるみの中に入れ、内側から抜け出せないようリボンで縛るのはどうでしょうか?」

「草鹿副隊長」

「んー。にょたいもり?」
「意味分かって言ってるんですか、このお子様は…。涅副隊長」

「……薬漬けにした挙句、犬らしく首輪を装着、後ろに擬似尻尾を象った××を×××して檻に入れ」
「分かりましたからもう結構です」




目の前で繰り広げられるやり取りに、できる事なら再び気絶してしまいたかった。
すでに額と背中は冷や汗でぐっしょりだ。

全部嫌だが、特に涅副隊長のだけは絶対嫌だ!
それなら隊長の千本桜景厳食らって死んだ方がまだマシだ!

誰でもいいから!俺が拉致拘束されて出勤してないって気づいて探しに来てくれ!!
朽木隊長―!!!













その頃の朽木隊長。
お昼になっても戻らない恋次にちょっとイライラ。日課のお散歩中、ふいに屋根の上から呼び止められる。

「おや朽木君、君もサボりかい?」

「京楽…兄と一緒にするな」

「まぁまぁ、阿散井君は一緒じゃないの?」

「アレは女性死神協会に呼ばれて、今日はおらぬ」

「あぁ、七緒ちゃんもそれに参加してるんだよね。いいなー阿散井君。女性死神協会と言えば女性の園だよー。男子禁制の秘密の花園だよ。僕も参加したいなーってお願いしたらさ、こう、強烈に」

そう話しながら指を刺した京楽の右頬は、本で殴られたように赤く腫れ上がり痛々しい。
本人はさしてそれを気にする様子も無くいつもの笑みで、持っていた杯を白哉に向けた。

「今日、君の誕生日だろう?どうだい一杯。七緒ちゃんが居ぬ間に手に入れた、旨い酒があるんだよね」





「…兄の奢りだろうな」




本日は快晴、まこと良い天気。
白哉さんの周りは今日も平和です。



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「嫌だ!メイド服なんて絶対嫌だ!」
「何を今更、裸も首輪も嫌だと聴かぬ貴様に譲歩してやっておるのだぞ」

「だから嫌だ!死んでも嫌だ!!」



話はこれより少し前、「そもそも俺はいつも隊長の傍にいるんだから、俺を送ったって何も隊長は喜ばないぞ!」と訴えた俺の墓穴発言から始まる。

「そうねぇ、そういえば恋次って朽木隊長と行く所まで行ってるのよね。…ちょっと新鮮味に欠けるかしら」

「マンネリですか」

「マンネリは一大事ですね」

「解決法といえば?」



「「…コスプレイ?」」



何でマンネリでコスプレイなのかは知らねぇよ!
つか俺と隊長はマンネリじゃねぇ!!


「ええい抵抗するな!今現世で一番萌えているというメイドの力は絶大なのだぞ!」
「お前また変なもん読んだだろ!第一隊長はオタクじゃねぇよ!!」


縛道のせいで、なかなか逃げる事のできないピンチな俺に更に危機が。
うっかり忘れてたけど、今日なんだよ。
まだ俺だって隊長にお祝いさえ言ってないばかりか、会ってさえないのに。


「だー!俺はこんな馬鹿らしい事に付き合ってられねぇんだ!」

乱菊さん達の視線に曝されたまま裸に剥かれた挙句、変な服を生着替えさせられるなんて、そんな生き恥を味わうくらいなら死んだ方がマシだ!!!


「……そうか」

突然、俺の服を脱がしにかかっていたルキアの力が弱くなる。
今度は何だ!

「私は…私は、日頃お世話になっている兄様に感謝の気持ちを込めて、ささやかな贈り物をしようと必死に考えているのだ。それを、貴様は馬鹿な事と言うのだな…」

語尾が震えている事に慌ててルキアの顔を見ると、それは体を震わせ、大きな瞳に大粒の涙を浮かべている。

途端に、沈黙する室内。


俺の背に一斉に付き刺さる、女性死神協会の連中の冷たい視線。
嫌な悪寒。


「泣かしたー」

「泣かせましたね」

「…下衆が」



あぁ…俺は必死に自分の身を守ろうとしてただけの被害者の筈なのに。
何でこんな悪者扱いされなくちゃいけねぇんだ。

今だって現に拘束されたまま服を脱がされる一大事だったんだぞ。




けど。


けど、…そうか。


ルキアはルキアなりに考えてんだな。
俺はその性で隊長にお祝いを言い損ねてるけど。

朽木隊長が喜ぶ事をしたくて、考えて、女性死神協会まで頼って。
必死に考えてるんだな。
俺は毎日あの人に会えるけど、ルキアは会えないワケなんだし。


なら、1日くらい、あと半日くらい。
それに付きあってやってもいいんじゃねぇか。


「…ルキア」

「良いのだ恋次、無理強いをした私が悪い」

「…協力してやるよ…今回だけだ」

しょうがねぇ。
着てやるよ、…メイド服。
萌えの真髄を極めてやろうじゃねぇか。




「そうか!ありがとう、…ありがとう、恋次」

途端に安心したように笑顔になるルキアの表情にホっとする。
…俺はつくづく、ルキアに弱いらしい。












「でもさー。実際の所180越える男が着れるメイド服って無いんじゃない?」

「そうですね。虎徹副隊長のなら入るかと思いますが、ナースはあっても、きっとメイド服は無いでしょう。」

「まぁナースでもいいけど。…ねぇネム。技術開発局って身長短くしたりとかできるんじゃない?」

「…可能です。」

「女性ものを着るのなら、ついでに中身も変えてもらったらどうだ。斬魄刀の性別を変えれるくらいならば、簡単だろう?」

「本日中には間に合うと思われます。」




ちょっと待て!!!
今どういう展開になってる?




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日も変わりそうな夜、ふいに扉越しに感じた白哉はその気配に眠ろうと布団に入りかけた体を起こし立ち上がると、そっと引き戸を開いた。

そこには、声をかけようか迷って立ち尽くしているルキアの姿。
その横には、ルキアの背丈と同じくらいの…大きな箱。


「すみません兄様!お休み中かと思ったのですが、…ご無礼をお許し下さい」

「何用だ」

「あの、お誕生日おめでとうございます!!…これ!受け取って下さい!」

ずいっと差し出されたのは例の大きな箱。





1月31日が終わるまで、あと2時間。

満足のいく贈り物を白哉に渡せたらしいルキアが、自分の隊舎に戻ってゆく軽やかな足音だけが、夜の闇にリズム良く木霊した。








後日、ルキアと女性死神協会には、白哉からお礼にと高級菓子折が届けられ、俺は31日中にお祝いを言えないばかりか、1週間仕事に復帰する事ができなかった。

その間六番隊副隊長失踪の誤報が飛び交う中。
朽木隊長だけは理吉が違う意味で恐がるほど、何時にも増してご機嫌に執務に励んでいたらしい。










fin...








【あとがき】

なんじゃこりゃー!!

自分で書いてて思いました。
白恋?ルキ恋?逆セクハラ?
もう何でもいいや。


こんなに長くする気は無かったのですが、気が付いたらアーレーという感じで長ったらしいモノになってしまいました(汗)
最後、恋次がどうなって贈呈されたのかは、ご想像にお任せです。


女性死神協会…。
カラブリの彼女達のノリは最強です。大好きです。



結局1日誕生日に間に合いませんでしたが、読んで下さって、ありがとうございました。







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Fペシア