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「隊長!市っ丸隊長ー!!」

空いた時間を潰そうと九番隊休憩室でくつろいでいた修兵は、いきなりダァンと大きな音を立て勢い良く開いた扉に驚いて、飲んでいた茶を危うく吹き出す所だった。
振り向けば予想通りの人物が、日頃見せた事もない酷い形相で部屋全体を睨みつけている。
しばらく気配を探っていたらしいが、修兵以外の人間がいないと分かるや否や、がっくりとその場に崩れ落ちた。



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どれだけ走り続けてきたのだろう。
死覇装は着崩れ、髪もバサバサ。
ぜぃぜぃと荒い呼吸を整えている間も、額からは汗が流れ続け、既に半泣き。


「……飲むか?」

先ほどまで自分が飲んでいた茶を差し出すと、すみませんと一礼した後にぐいっと一気に喉に流し込む。

「どこにも…見つからなくてっ…早く…仕事が…すぐに隊長の署名の必要な書類がっ…」
「…大変だな」

いつから探しているのかと聞けば朝かららしい。
五番隊に行っているという情報で五番隊に行き、雛森から六番隊に行ったと聞かされて六番隊に行き、阿散井から…。
そうやって巡り巡っているのだと言う。哀れ過ぎてかける言葉も無い。


「先輩。市丸隊長は…」

今度こそ。そんな期待のこもった目で見つめられて。
修兵は思わず視線を反らしてしまった。

「あー…ついさっきまでは此処にいたんだけど…な…」

言い切る間にみるみる落ち込んでいく後輩の反応が面白い。
このまま泣いたりしたらそれはそれで面白いのだが、涙を溜めてぐっと堪える様も可愛らしい。





「更木隊長に用があるとか言ってたから。今から急げば間に合うんじゃねぇ?」

するとまだ息も切れ切れな状態のくせに再び立ち上がろうとする。

「おい、休んでいけよ」
「…いえ。急ぎますので、失礼します。お茶、ありがとうございました」

丁寧に頭を下げ、空になった湯呑みを返すと十一番隊詰所のある方角へと走り出す。
それを扉まで見送った修兵は再び席につき、空の湯呑みに再び茶を注ぐと、窓から音も無く入ってくる気配に深い溜息をついた。

「あなたも御人が悪いですね」

くつくつと満足そうに笑うその人は、先ほどの後輩が死に物狂いで探し回っている意中の人。

「ボクは別にイヅルに意地悪しとるんとちゃうんよ。諦めもせんで一生懸命ボクを探し回ってくれるんが嬉しゅうてな」

これも一種の愛情表現…とでも言いたいのだろうか。
端から見ると只の嫌がらせにしか見えないが、この人にとっては、これはこれで愛を確かめる手段と言うのだろうか。

「な。愛されてるやろ?ボク」
雛森君や阿散井君にも引き留めてくれるん頼んだのに、全然休まず探してくれとる。

「はあ…」

上機嫌に語ってはいるのだが、当の本人がこれを知ったら即倒するのではないだろうかと思う。

「けど次見つからんと流石にイヅル、泣いてまうかもしれへんからな〜」

そろそろ捕まってやろうか。
そう告げると先ほど彼が走っていった方へふらりと歩き出す。
その様子に修兵はほっと胸をなで下ろした。

正直、何を考えているのか検討もつかないこの人は苦手だ。
独特の感性で語られると思考の食い違いで間が保たない。

今回この人に協力したのだって、後輩には悪いがあまり関わりたくなかったからだ。



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後輩を追いかけていくように、完全に姿が見えなくなったのを確認して、大きなため息をつく。
やっと平穏が戻った休憩室で先ほどの茶を飲み直そうと、湯呑みへ手を伸ばそうと、した。



「あ、せやせや忘れとったわ」
「!?」

至近距離から急に聞こえてきた声に、一瞬本気で心臓が止まるかと思った。
とっくに後輩を追いかけて行き、ここには興味も関心さえも残っていないだろうに…。
まだ用があるのかこの人は。

「間接キスでもボクは許さへんよ?」

先ほど後輩に茶を飲ませた湯呑み。
再び飲もうと思って満たしていた茶が、目の前であっけなく空にされる。



「ごちそーさん」


そういい残し、今度こそ完全に消える姿と霊圧。
一人残された休憩室で空の湯呑みを見下ろし、修兵はこれから十一番隊で起こるだろう騒ぎを想像して苦笑いを溢した。



本当に、自分の隊は平和でよかった。
いつもと変わらない、平穏な昼下がり。







Fin...











【あとがき】

追いかけているつもりで実は追いかけられてるイヅル君です。
わりと修兵はノーマルで出しやすいキャラなので第三者という役にピッタリ。うん。
作りかけの「掌の上」の気分転換に書いてたら、こっちが先に終わってしまいました…(絡みになると極端にスピードが落ちるんですよ)

ギンイヅは動かしやすいカプなので書いてて楽しかったですv
読んで下さってありがとうございました。




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