- あの日から浮かぶのはいつも決まって -
[微妙な19のお題一覧]



「…痛っ」
血が染み着いた包帯をに解き、薬の塗られた布を丁寧に剥がしてゆくと、傷口がひきつってピリっとした痛みが走る。
縫い合わされた生々しい3本の痕に修兵は眉を潜めた。
痕に残るのは仕方ない。失明しなかっただけでも奇跡だし、何より大切な同僚を失った。

もう包帯しなくても大丈夫そうだ。
赤黒く変色していた痕も今は肌の色を取り戻しつつあるし、じきに糸も取れるまで回復するだろう。
「…グロ」
鏡に映る自分に苦笑し、浴室を出る。

すれ違う連中の視線が自分の傷に注がれるのを感じる。
体なら日常茶飯事だが、顔となると別なんだろうな。
哀れみ、驚き、それらが入り混じった視線を浴びる度この傷がうずき出す。

もっと俺が強かったら、あの2人を死なせずにすんだのに。
虚の気配だって蟹沢が犠牲になる前に気がつけたかもしれないのに。
自分の非力さの証のようで、そう考えるとズキンと痛みだす忌々しい傷。

瞼の裏に焼き付いたように浮かぶのは紅の色。

赤い…赤黒い。仲間の色。
自分の色。

…そしてーー。


「っス。先輩!」
後ろからの聞き慣れない声に振り返った。

「先輩も風呂だったんですか」
「お前は…?」
肩まで伸びた紅い髪が夜風を受けてサラサラと流れる様子に見入る。

「あ、1年の阿散井です。この前の実習の時世話になった」
「…命令違反の」
それまですっかりと頭の中から消えていた一年の3人組。
その一人。だが記憶にあったのはこんなに美しい紅だったろうか。

「はは。それより大丈夫すか?顔の傷、すげぇグロそう」
先ほど自分が思ったセリフだが、他人に、ましてやほぼ初対面の後輩に言われる筋合いは無い。
「別に」
礼儀がなってないのは一年だからと言い聞かせ、湧き上がった怒りまかせに怒鳴ってやろうかと口を開きかけた時だった。
「けど、先輩って凄いっすね。」
「あ?」
「俺なんか雛森が行かなきゃ逃げてたし。俺ら逃がす為に2体の虚相手に全然怯んでなかったし」
俺にはまだそんな事出来ねぇや。
そう笑いながら話す目の前の1年の言葉に、呆然と動けなくなる。
八つ当たりしようとした相手から、逆に好意的な言葉を受けたのだ。
なんて事だ。これではどちらが子供なのか分からない。

「あ、やべっ!俺早く寮に戻らないといけなかったんだ。それじゃ先輩!」
自分から呼び止めておきながら、阿散井は思い出したように慌てて先ほど歩いてきた道を、1年達の寮へと向きを変え走り出した。

「何だ…一体。」
一人取り残された俺はただ何も言えず、後姿を見送るように立ちつくす。

その後ろ姿に映え踊る、長い髪。
紅い、紅い。

あいつの色。





Fin





そのまま卒業後、恋次が十三部隊に入った後に修兵が偶然見かけて「あの時の!」とか思い出してくれたらいいなと思います。




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Fペシア