- キス - [妄想人に捧ぐ48のエ口御題]




本当にくだらない賭けをした。

「本日、今この瞬間から日付が変わるまでに誰にも見られずアタシに100度、接吻できたら」

お望みのままに?


「…は…っ」

何だそれ。
馬鹿らしくて笑ったのに、頬が引きつったのが嫌な程分かった。
強く握ってじわりと汗ばんだ掌を開くと外気がヤケに涼しくて。シャツの背に張り付くのはきっと冷や汗。


くだらねぇ、そんな言葉が俺の精一杯の告白の返事か。
んな事簡単だろ。
抱きしめて捕まえて閉じこめて。
そうすりゃ1度1秒、100度100秒1分半計算。
簡単じゃねぇか。


俺の決意と勇気はそんなゲームみたいなものでケリがつくほど軽いものなのか。


それとも。
それで願いが叶うなら。
アンタが手に入るのなら。

…安いのか。




扇子で半分隠れている表情は酷く余裕を持ち、それでいて楽しそうで。
隠された唇もきっと笑ってる筈。

この人は知っているんだ。
くだらないと罵れるほど俺は大人でもないと。
せっかくのチャンスを断る筈が無いと。
俺の想いも、何もかも。






「言っておきますけど、誰かに見られたらそれはカウントに入りませんよ」

「ああ」

「…では、現在午前十時過ぎ。残り十四時間弱でスか。…まぁ、これはサービスで差し上げましょう」

パチンと扇子を閉じる音がして。
一歩。

唇に触れたのは、柔らかい皮膚。
固まってた俺の前で顔を傾けて、少しだけ吸いつくような。一瞬一秒。
そいや誰かがレモン味とか言ってたな。


現実は甘くも酸っぱくも、ましてや苦くもなく。
ただ、ほんのりと浦原さんの吸ってる煙草の香がほんの少し鼻をかすめただけで。指で触った感触なんか比べものにならない程の柔らかさ。
半歩遅れて体を掴もうと腕を上げた時には既に遅し。
後方、部屋の扉を開き半分体を乗り出していた。

「雨ーっ。昼と晩の食材、黒崎サンの余分に買ってきてくれますー?」

遠くから子供の返事。
…いつでもドウゾ?ってか。


「さァ、アタシは店番でもしましょうかねぇ」

振り返り、色を含んだ視線が俺を捉える。
唇が綺麗な円を描き、俺を誘う。


「黒崎サンは…どうなさいます?」





上等じゃん。

…畜生。






fin
舌も絡ませないフレンチなキスのみでどれだけエロくなるか挑戦して敗北。
私はぐちゃぐちゃに絡めるちゅーも好きですよ。

とあるサイト様の影響で、青くて未熟でがむしゃらな少年を遊んでからかい、気が付いたら本気になっちゃってちょっと焦ったりするクールビューティなハンサムエロ店長が最近のブームです。
店長の話し方は難しいですねぇ…。


(06.06.09)

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