5代目 拍手




【 興 】




渡り廊下から見える外はとても和やかで、春の花がからかた散り終わり新たに芽吹いた若葉が、降り注ぐ暖かな日差しを受け、黄緑色の葉を輝かせている。


食い終わった飯も消化しきり、小腹が空き始めた昼下がり、俺は広い隊舎を宛ても無く歩いていた。
何故なら、さっきから声を張り上げて呼んでいるお人が見つからない為。
これじゃせっかくたいらげた焼魚定食が日が沈む前に全部エネルギーに変わっちまいそうだ。

すれ違う部下が自分に向け挨拶する言葉に声だけで軽く答え、廊下の先から外の離れまで目を凝らしながら霊圧を探る。
あの静寂した深い水底のような重い其れを、微かも見逃さないように。
隊舎の端から端まで、各部屋、資料庫を一つ一つ、そりゃもう片っ端に。


けれど姿を見つける迄には至らない。

辺りには気配すら無く、歩く度に床が軋んで上げる音だけが耳に入った。

ギィ、ギィ…。
屋根があるものの、雨ざらしの廊下は少しだけ老朽化して、好天続きで乾燥した板が体重を受けて音を上げる。
響く其れは一人分。
要は此処には俺しかいねぇって事。

あぁ、ちっとも見つかんねぇ。
もう一回、霊圧探ってみようと立ち止まる。
大きく息を吸って、吐いて、全神経集中。


額にはそんなに暑くもねぇのにじんわりと汗をかいていて。
焦る。これはいつまで経ってもアンタが見つからねーから。
そんな自分に対して、苛立つ。


……ギ…。


とっさに振り返る。

誰もいない。
其処は長い廊下が続く人気の無い場所。
意識して探っても霊圧や気配は…無い。
今の、なんだ?


また歩く。

ギィ…ギィ…。
音は一人分。気配も一人分。


立ち止まる。
振り返る。

……。


誰もいねぇ。
やっぱ気のせいか。
そう張り詰めていた緊張感を解き、後ろにやっていた視線を前に戻すべく、腰から上をねじっていた体の向きを変えようと動かして。

…ひたり。
首筋に。



「煩い」

情けない悲鳴が人気の無い廊下に木霊し。その人はさも大きな声が不快だと言うように眉間に皺を寄せた。

「っ…っ!」

当たり前だろう!
何も霊圧も気配さえも無かったんだ。
急に湧いて出てくるなんて卑怯じゃねぇか!
そんな文句が喉の奥までせり上がってくるけど、どうにかして舌が動く前に己の唇を噛みしめ睨みつけるだけに留めた。


言ったら負けだ。
ほら、言い返さねぇ俺にアンタは少し不服げに目を細めただろ。


そんな台詞、口に出してやらねぇ。絶対に。
口に出したら最後、アンタはさぞかし満足げな顔で俺を見下すんだろう。
気配を感じられなかったのは俺の方だと。霊圧を察知できないのは未熟者の証だと。

そんで、ちっとも縮まってねぇ俺とアンタの実力の差に歯噛みしてる俺を笑って玩弄するんだ。
捻くれた欲を満足させてなるものか、絶対に。


「探しましたよ、朽木隊長」

冷静を装った静かな声音で。
言ってやるものか。


「……」

そしたらアンタは能面のその顔の口端だけを吊り上げて、俺を笑うんだ。









「生意気な犬ほど、躾け甲斐があるというものだ。」



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白←恋な感じに見えて、実は隠れ白→恋のつもり(分かりにくくてスミマセ/謝)
この兄様はドS希望。
誰もいない静かな廊下って場所がポイントです(笑)

拍手ありがとうございまいした!







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