4代目 拍手




>白恋
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「手の中の紅」








日の出前、辺りがまだ青白い霧に包まれている頃。
白哉は隊自室の外へと続く縁側で一人腰を下ろし、外を見ていた。

誰の気配も感じない、穏やかな朝。
それはとても静かで。
吐く息も未だ白く、刺すような冷気が身を縛るような。



「散歩、終わったんすね」

障子を開けて隊自室から顔を出したのは、寝起きの紅をだらしなく肩にかけたままの男。
薄手の寝着も寝相の悪さから大分乱れているのだが、さして気にする様子も無く、寝覚めの体に外の冷気が応えるのか、ぶるりと身震いをしながらも、大きな欠伸を一つ。

「まだ寝ていてもかまわぬぞ」
「目ぇ、覚めちまったんすよ」

ずるずると隣に来ると、そのまま同じように座り、同じように視線を外へ。
霧かかった外はまだ薄暗くぼやけていて、恋次は外と白哉を見比べ、その視線の先へと目を細めた。

「…何か、見えるんすか」

応えない白哉に恋次は首を傾げたまま、だがそれ以上は何も聞かずに外を見る。
外は吐く息も白く、未だ薄暗く。
それはとても静かで。

「くしゅん」


それを乱すような隣の紅に、白哉はそっと手を伸ばした。
冷えきった髪をさらりとすけば、恋次は照れたように目を向けたが、そのまま視線を合わす事なく外を見つめたまま、髪をいじる白哉にやはり首を傾げただけで。
それでも少しだけ体を寄せてみた。

体が触れるか触れないかの距離で止まったその様子に焦れるように、白哉はすいていた指をそのまま頬へ、首の後ろへ廻すとそのまま引き寄せる。

触れた唇もやはり冷えきっていて。
そっと触れあった掌を繋ぐと、そこだけほんのりと暖かい。

「朝っすね」
「…そうだな」

繋いでいた指を絡めて、暖め合うように寄り添って。
徐々に明るくなってくる空に照らされる庭園を眺める。

「…梅の花、咲いたんすね」
「ああ」

それはたった一輪だけ。
固い蕾を綻ばせて白い花弁はまだ柔らかく、ひどく頼りないが確かに一輪だけ。
朝露を受けて美しく輝くそれを、白哉はただ、黙って見ていた。
恋次も黙って、それを見る。

結んだ指を、一度だけぎゅっと握ると、恋次もぎゅっと握り返して。
ただ、眺めた。



「戻ろうか、随分と冷えた」

ふいに立ち上がった白哉に、恋次も続く。
繋いだ指はそのままに、布団の中に潜りこむ。



暖め合うようにすがりつく紅を、白哉はそっと抱きしめた。



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「其れは枯るが掟ならば、その完うを見守ろう」


ラブラブにするつもりが、…なんか切ない感じ?
んー、、辛い思い出を乗り越えて、恋次とイチャラブして欲しいです。
拍手ありがとうございました!



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>修恋
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「チョークと黒板」








ギィ…―ィ―…ッ

世話になった担任のセンコーに挨拶して、皆帰った教室に一人で落書きだらけの黒板に、わざと新品のチョーク使って「バカ」って書いた。

平たい面を思いっきり押し付けて、派手な音立てて。
耳ん中がおかしくなりそうな、その奇音に酔う。



「何やってんすか」
「…、お前らもHR終わったのか」

開けたままになってた扉にすがって見てんのは、急な成長期であっさり俺を抜きやがった目つきの悪ぃ後輩。
伸びすぎた背丈に制服が追いつかなくて足首丸見えで、デカくなりすぎでサイズが合わなくなった汚ねぇシューズを履き潰してスリッパ状態。


「途中だけど…、今ならまだいるんじゃないかって思って…抜けて来た」
「馬鹿、最初と最後くらいちゃんと出席するもんだぞ」

「だって…!」


阿呆、そんな目で見てんじゃねぇよ。



「バンド辞めたって…もう練習にも来ないって、本当すか」
「…俺が行く大学、けっこう遠くて寮だし。遊んでる暇なさそうだし?」

「遊び…って。…そんな簡単に捨てられるモンだったのかよ!」
「悪ぃな、俺もそれなりに野望ってあんのよ」

「じゃぁ!俺にあんな事したのも、全部遊びの内だったのかよ!!」


阿呆。
本当に、阿呆だ。

蒸し返すなよ、んな事。


黒板に書いた「バカ」を、更に太っとく塗りつぶす。
新品のチョークがバキバキ折れて床に落ちるけど、気にしない。

どうせ片付けはお前らのクラスだろ?


黒板の隅に、ちっこく書かれた癖のある下手糞な字で卒業祝いのメッセージとは違うメッセージ。
俺個人宛てのソレを、バカって字で塗り消した。



バカだよ俺ら。
卒業したらさ、嫌でも離れちまうんだ。

それなのに、コイツに手ぇ出したのは俺。
それなのに、応えたのはコイツ。


もしかしたら来るんじゃないかって、ギリギリまで女々しく待ってたのは俺で。
やっぱり来たのはコイツで。


「檜佐木せ…ッ!」


襟掴んでそのまま扉に押し付けて。
驚くけど、やっぱり抵抗してなくて。


バカだ、本当に。





チョークで白くなった指のままポケットに手ぇ突っ込んで携帯出して。
イヤホン耳に当てながら、お気に入りの曲を再生。
一人だけで、正門をくぐる。


本当に今さら、バカの下に消えた告白の返事を、メールで送った。






明日も、会おう。


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「遠距離恋愛上等じゃん!」


卒業といえば別れ…新たな出発…。ですが、別れきれないものもあるのです。
タイトルが気に入らなかったので、ちょっと変えました。
拍手ありがとうございました!



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>市吉
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「あのコは、春の色」









そよそよと吹き抜ける暖かい風。
芽吹く若葉。香る花の香り。

見上げれば、果てしなく広がる青空。
なんとなく心が浮き立つから、今ならきっと雲にだって届きそうな気がして、そっと手を伸ばしてみた。
だけど届くわけもなく、袖がゆらゆらと風に乗ってたゆたうだけで空回り。
そっと先ほど見つけて摘んだ花を鼻に押し付けて嗅ぐと、胸いっぱいに広がるのは春の香り。


もう一度、青空に手を伸ばしてみる。
やはり届かない。



「見つけましたよ、市丸隊長!」


まぶしいくらいに照らしていた日の光がその声と共に遮られた。
それが嬉しくて、思わず笑った。



「ふふっ…イヅルはボク見つけんの天才やね」
「そんな風に手を上げられていらっしゃれば、誰だって見つけられます」

溜息交じりに頭上から見下ろしているのは、可愛い可愛いボクの愛しい人。

風を受けて、顔にかかった金糸がゆらゆら揺れて。
その瞳は後ろに広がる空と同じ、澄んだ青。
また嬉しくなって、手を伸ばした。

今度は確かに届いて握り返してくる、その春。
起こそうと引っ張ってくるから、力任せに引き寄せてボクの上に落とした。


驚くキミに、そっと差し出したるは春の花。

「菜の花、ですね」
「イヅルの色や」

薄い黄色の、小さな花。



手を伸ばしたら、触れられる。
ボクだけの春。


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「貴方は真冬の雪の中にその実を落とした柊の様です」


一番春らしい内容になったかな、と。
冬はギン。春はイヅル。夏は恋次。秋は白哉。
みたいなイメージが自分の中にあります。
拍手ありがとうございました!





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