3代目 拍手



「オラ理吉!酒」
「恋次さん飲み過ぎですよ」
「バカ言ってんじゃねぇ!今飲まずに何時飲むってんだ。あ?お前さっきから全然減ってねぇじゃねぇか」
「うゎっ…もう勘弁してくださいよ〜っ」

日も沈み、刺すような冬の冷気に吐く息も白く凍える頃、隊舎の一室ではそんな外など素知らぬような、そんな活気に満ちていた。

「今年も一年、宜しくおねがいしやーっす!!」

湧き上がる拍手とお囃子。
盛大に打ち鳴らされる杯の音。

その席の真ん中で恋次は上機嫌に、そして豪快に酒を飲み干しながら近くの部下を1人2人と潰している。
付き合わされている周りの部下は潰れて青い顔をして寝ているか、早々に退散し親しい者と話に花を咲かせているかのどちらかで、雰囲気的には宴会と呼べるにふさわしい感じだ。
いつの間にか他の隊の吉良や檜佐木、その他も混じり室内は無礼講の大騒ぎ。


そのバカ騒ぎからある程度離れた窓際で、白哉はその様子を不機嫌に眺めつつ酒を口に運ぶ動作を繰り返していた。


育ちと環境、加えて性格の問題で白哉はこの雰囲気があまり得意ではない。
だがそれを理由に毎年行われる酒席の誘いを断り続けるのも限界があり。全く出席しないというのも上司として示しがつかない訳で。若い隊員も多い中、静かに酒を飲めなど命令するだけ無駄な事。
その場所でその相手を望めそうなのは自分の性格をよく知る恋次だけで、それを予測し気まずい空気にならないようにと気を利かせた彼が張り切って盛り上げ役を買って出た事により、今のバカ騒ぎに至る。


ならばせめて一人でゆっくりと酒を楽しみたい所なのに、傍にいるのはどこから現れたのか、怪しげな狐が1匹。

「なんや冷たいなぁーせっかくの宴会やのに」
「兄を呼んだ覚えは無いが」
「ボクはイヅルの付・き・添・い。あの子は酔うと脱ぎ癖があるさかいボク見がとらんとあかんのや」

楽しげに笑う狐も顔色は相変わらず色素の抜けた髪と同じくらい白いままだが、実は相当出来上がっているらしく、皆が飲み終わった酒瓶を集めては積み重ね、塔を作る作業に没頭中。




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「隊長ー!飲んでまっすかー!」

ご機嫌に尻尾を振ってやってきたのは大型犬。理吉を潰して遊び相手がいなくなったらしく、後方で倒れている部下を放り出して寄ってくる。
許しも乞わずに隣に正座すると、じっと此方を伺う様子。それはまるで頭でも撫でてくれと待っている犬そのもの。

副官という立場でそのようなナリはいかがなものかと呆れる一方、そんな様を見せてくれるほど懐いてくれているのだと相反する想いもあり、少なからず不快では無いと感じている自分自身もいて。
その甘さを自覚して、白哉は深い溜め息を吐いた。

そっと手を伸ばして柔らかい髪を撫でれば、一瞬驚いたように此方を覗き、嬉しそうに笑う犬。


なでくりなでくり。



犬はご機嫌。



「あぁ、あかん!」

芸術的に積み上げられた瓶がぐらりと揺れる。
響き渡る強烈な炸裂音。
飛び散る破片。
悲鳴を上げながら逃げる部下達。
笑い転げる狐。


更に盛り上がる騒がしい会場を眺め、白哉はまたゆっくりと杯に口を付けた。


膝の上にはぐっすりと寝込んだ大型犬。





もう少し、こうしているのも悪くない。






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去年書いて放置してた文を時期に合わせて加筆訂正して再利用。
あの時は酒ネタばかり頭の中に浮かんでいましたが、今はご主人様とペットな白恋がマイブームです(笑)

ちゅうか、これじゃ本当に恋次が犬だ…。
読んでいただきありがとうございました。




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