2代目 拍手
目の前の鏡を、穴が空くのではないかと心配するくらい凝視し、恋次は一端縛った髪紐を結い直した。
右、左と何度も顔を傾け、今度こそ無駄な髪が紐からはみ出していないかを入念に確認した後、高い位置にまとめた髪へもう一度櫛を通す。
その出来に満足したのか、鼻歌まじり。
後ろ姿を、白哉は何気無く横目で見ていた。
時刻は、朝。
「いいな〜」
ふと、鏡にではなく自分に向かって発されたらしい声を耳にして、白哉は読んでいた書物から視線を上げた。
目の前には普段と変わらずきっちりと髪を纏め終わったらしい恋次が、こちらを覗いている。
「何がだ」
何をしたわけでも無いのに羨ましいと声をかけられ、白哉はその言葉の真意が分からず聞き返した。
すると、唐突に自分の顔へと伸ばされる、恋次の手。
否、それは顔を通り越し、寝起きのままの頭へ。
ゆっくりとした動きで、髪を梳かれる。
普段される事のない動作に白哉は眉を顰めたが別段避ける訳でもなく、そのまま恋次の顔を見上げ、嬉しそうに自分の髪を遊ぶ恋次の表情に目を細めた。
「だってよ…隊長のって、太くてコシがあって長いくせに絡まないし、そのくせ艶も抜群で好い香りするし…最高だよなーって…」
「…?……そうか」
「そうっすよ」
誉められているとは理解できたが、さほど嬉しいとは思わないのは、恋次の答えを聞いて一番初めに連想してしまった「うどん」のせいだろう。
尚も目を輝かせて髪を触り続ける恋次に視線を向けたまま、白哉は持っていた書物を無造作に床へと投げ捨てた。
投げ捨てられた書類を目で追う間に、白哉の両手が自分に巻きついてくる。
自然な流れで、唇を重ねていた。
「…ん…っ」
首の後ろに回された手で白哉の方へと引き寄せられ、触れていただけの唇を開き、絡ませる舌。
なんども味わい合うお互いの感触に、昨晩の記憶が鮮明に蘇ってくるようで。
恋次は恥ずかしげに身じろいだ。
唇を離した隙に糸を引く唾液が、明るい部屋の中でキラめいて。
それを舌でチロリと舐め取る白哉の視線が自分の視線と合ったが、反射的に反らせる事ができなかった。
反らしたら負けたような気がするという気持ちもあるが、この官能的な視線に、できる事なら囚われていたいと。
名残惜しい、と。
もう、朝だ。布団も片付けないといけないし、着替えないと。
そう常識めいた事をぼんやり考えていたから、不意に前から押された衝撃をそのまま受け止めてしまっていた。
手で胸を押されて、そのまま背中から畳の上へ落ちて。
あまりに急で少しむせた。
「ちょっ…何してんすか!」
「煽った貴様が悪い」
「ハァ?!どこをどう取ればこうなるんスか!」
起き上がる隙も与えず、白哉は恋次の体に自分の体重をかけて乗り上げる。
流れるような仕草で白い指が着物の合わせを開く。
時刻は、朝。
煽った?
自分が?隊長を?
「私のは太いだけでは無く持久力も抜群だぞ」
「へ??いや意味分かんねぇっス!つか時間!支度しないと、って…隊長…っ!!!」
「直ぐに済む。案ずるな」
せっかくセットした髪も、きっと結い直しだと。
これだから貴族は嫌いだと。
心の中で、毒づいた。
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私の中の白哉さんは割とこんな感じ。
ありがとうございました。
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